2014年5月16日(金)

「ナポリピッツァ」旨さの秘密【3】チーズ

dancyu 2012年3月号

文・森脇慶子 撮影・石井雄司 教える人:池田哲也(「ベッラ ナポリ」ピッツァイオーロ)

デリバリースタイルのアメリカンピザの影響で、われわれ日本人はトッピングが大好きだ。あれもこれものっけてしまい、あれはあれでやっぱり旨いと思う。
でも、ナポリピッツァでは、そうもいかない。クラシカルなメニューは、初めて見たときには、ちょっとしみったれてるな、と思うほど具がシンプルなものだ。というのも、ナポリの日常食であるピッツァは、まず安くて旨いことが求められる。その帰結として、材料はシンプル、そして生地がとびきり旨いことが最重要課題なのだ。

一体感の正体は“乳化”だった!

ピッツァを丸ごと1枚、飽きることなくペロリと平らげられるかが、私にとってピッツァの良し悪しを見分ける1つの目安となっているのだが、ならば、一体どこにその差があるのだろうか……。

改めて思い返してみたところ、ある事実に気がついた。旨い! と思うピッツァは、いずれも具やソース、そして生地が混然一体となって口中に広がるのだ。

具の水分と油を乳化させるには、400℃超の薪窯の高温が不可欠!

池田さんによれば、この一体感を生み出しているのは、“乳化”なのだという。一般的にはマヨネーズやパスタのソースをつくるときのように、水と油を強く攪拌し一体化させることをいうが、実は、ピッツァを焼く過程でもこの乳化が起きているのだ。

「薪窯の高温によってモッツァレラチーズが溶ける際に出る水分と、最後の仕上げにかけるオイルが生地の上で乳化するんです」と、池田さんは説明する。

400℃を超えるようなピッツェリアの窯の中では、トマトソースやチーズからにじみ出た水と、オリーブオイルの分子が高熱で超速振動を繰り返す。このようにして水と油が沸点に向かう途中、それぞれの分子が揃う瞬間がある。そのとき水と油が一体化し、いわゆる乳化が起こるのだと、池田さんは言う。ピッツァの上に見える、白濁した液体がその証だ。

乳化でまず重要なのは薪窯の温度。多くのピッツェリアが、薪窯に心血を注ぐ理由の1つがここにある。「ベッラ ナポリ」では、比重の重い溶岩石を砕いた砂を用いて、保熱性が高く、500℃の高温にも耐えうるピッツァ窯を特注。窯の天井を低くして内部の温度を上げやすい工夫も施しているのだ。

水分量の多いチーズを使うのもポイントだ!

そしてもう1つ、池田さんが「意外と見落としがちなんですが……」と指摘するのがチーズの水分量である。パスタソースを乳化させる際に、パスタの茹で汁から溶け出したタンパク質が含まれ、乳化を安定させるためだが、チーズからにじみ出る水分にも同じことが言える。

「ベッラ ナポリ」で使う北海道の白糠酪恵舎と岡山県の吉田牧場でつくられたモッツァレラチーズは、ともに水分量が多い。なかでも白糠酪恵舎製は半分以上が水分と群を抜いている。

これらのチーズが、クリーム状にとろける焼きたてのピッツァを口にすれば、どこかバターのコクを思わせるミルキー(またはクリーミー)な余韻が印象的だ。これこそが乳化の賜。旨いピッツァの必須条件である。


池田哲也/ピッツァイオーロ
大手百貨店勤務時代、服飾関係の仕事でイタリアをたびたび訪れるうち、ピッツァに興味をもち、ナポリのピッツェリアで研修。大衆的な「ベッラ フィリオーラ」と山の手系高級店の「アル サラゴ」でピッツァを学ぶ。1999年に帰国後、東京・森下に「ベッラ ナポリ」をオープン。

この連載記事のバックナンバー
トップページへ戻る

森脇 慶子