暗黙知【4】――仮説を持って話しているか?

すでに述べてきたように、「稼ぐ人」は、相手の状況や興味関心に合わせて相手視点で話すことができます。相手視点で話すということは、すなわち「自分のなかに答えを持たない」と言い換えることもできます。「自分はこういう人間だ」「自分の考えはこうだ」と決めつけてしまわずに、相手の要望に合わせて、自分自身の打ち出し方を自由にカスタマイズできるということです。

「稼ぐ人」が相手視点を尊重するのは、自分の評価は自分でするものではなく、相手がするものだと理解しているからです。実際に年収1億円以上を稼ごうと思えば、周りの実力者や一流の人たちの協力や支援が不可欠です。そのためには、彼らの価値基準や評価軸を知り、それらを満たすことで、「この人に力を貸そう」と思ってもらわなければならないのです。

かといって、カメレオンのように相手色に染まればいいということではありません。自分なりの「仮説」を持つことは絶対に必要です。仮説を持って話すとは、つまりは自分の強みや自分軸に照らし合わせて話ができるということです。相手の求める、望むことに対して、自分なら何ができるのか。他の誰でもなく、自分だからこそ提供できる価値をしっかりと伝えられなければ、相手にとってメリットがありません。

ファイナンシャル・プランナーである私が「話し方」についてお伝えするという今回の企画も、相手視点と自分なりの仮説をバランスよく持ち合わせたからこそ実現したと言えます。というのも、私は顧客の資産管理が本業であり、話し方のプロではありません。ですから、私に求められているのは、「正しい日本語で話す」といった内容ではないはずです。

その代わり、年収1億円以上の顧客を50人抱えているという実績から、「稼ぐ人」たちの話し方を観察し、その特徴を分析できる立場にいます。したがって私がお伝えできるのは、話し方の一般論ではなく、「稼ぐ人の、人を引きつける話し方」です。ここに私だけが提供できる価値があると考えています。

相手視点を持ちながらも、自分なりの仮説を加えて自分色を打ち出す。「稼ぐ人」は、この2つのアタマをバランスよく使いながら話しています。