新興国に安全確実な国はないのである

いま、日本電産グループは売上高7200億円、営業利益800億円(2012年度予想)で、従業員は10万人超に達している。今後の目標は「兆円規模」のグローバル・エクセレントカンパニーになることだ。1973年、たった4人で始めたモーター事業が、気づけばもう「これだけの規模」になっている。

といっても、ただ図体が大きくなっただけではない。実はいま、日本電産は質的にも変化の時期を迎えている。これまではPC(パソコン)のHDD(ハードディスクドライブ)用精密小型モーターを軸に、日本市場を見据えて戦ってきた。競争相手は日本のメーカーだった。

だが、兆円規模の会社は「PC向け」のようなニッチ(すき間)市場に頼っていては実現しない。だから私は「家電・商業・産業用」と呼ぶ中型モーターや、電気自動車の普及を見越した車載モーターの分野へ、M&Aを織り交ぜながら早め早めに乗り出してきた。

タブレットの出現で、日本電産のHDD用モーター事業は大打撃を受けた。
(AFLO=写真)

ここへきて、iPadなどHDDを内蔵していないタブレット型PCが急激に売れ行きを伸ばし、従来型PCのシェアを奪っている。もし日本電産の事業構造がいまなおPC向けの「一本柱」のままなら、業績の落ち込みは深刻だったに違いない。PC以外に家電・商業・産業用、車載、その他の三本柱が育ってきたから、こうした一時的な波乱にも耐えることができたのだ。

一方、われわれが軸足を置く日本市場は、残念ながら人口減少局面にあり、今後は大きな伸びが期待できない。だから世界市場へ乗り出し、販売・製造拠点を確保するだけではなく、ブランドと販路と技術を持つ優良な海外企業の買収を重ねている。私の海外出張が増えたのは、そういう事情があるからだ。

進出先はすでに30カ国に及んでいる。特定国に集中しないのは、カントリーリスクを分散するためだ。2年先、長くても5年先までなら、どの国に工場を置けば有利かを予測することはできるだろう。しかし10年先、20年先となると、不確実性がぐっと高まり、どの国が有利でどの国が危険かを言い当てることはまずできない。