2014年5月2日(金)

「ナポリピッツァ」旨さの秘密【2】トマトソース

dancyu 2012年3月号

文・山中 純 撮影・工藤睦 教える人:寺床雄一(「タランテッラ ダ ルイジ」ピッツァイオーロ)

デリバリースタイルのアメリカンピザの影響で、われわれ日本人はトッピングが大好きだ。あれもこれものっけてしまい、あれはあれでやっぱり旨いと思う。
でも、ナポリピッツァでは、そうもいかない。クラシカルなメニューは、初めて見たときには、ちょっとしみったれてるな、と思うほど具がシンプルなものだ。というのも、ナポリの日常食であるピッツァは、まず安くて旨いことが求められる。その帰結として、材料はシンプル、そして生地がとびきり旨いことが最重要課題なのだ。

ソースはムラがあると旨い

ナポリピッツァのトマトソースは、缶詰のトマトを潰してつくる。これは本場イタリアでも同じで、生のトマトは収穫期にのせる具として使われることはあっても、トマトソースの材料として使われることは、基本的にはないという。

ところが、だ。「ルイジ」のトマトソースを口にしたときに感じるのは、生のトマト? と思ってしまうほどに新鮮なトマトの香り。瑞々しさと濃厚な旨味が同時に味わえるトマトソース。その秘密は、いったいどこにあるのだろうか。

右が甘味が強く味に重みがあるトマト。左は酸味が強く、水っぽいもの。2種類をブレンドして、味のバランスをとる。

使用しているのは、イタリア産サンマルツァーノを原種とするトマト。毎年秋になると、イタリアでその夏に収穫されたトマトを詰めた缶詰を数種類取り寄せ、味見をして、使う缶を選び抜く。

「これだ! という一缶があれば1種類で事足りるのですが、残念ながら今シーズンはそうはいきませんでした……」

旬のトマトがもつ甘さ、酸味、フレッシュ感、香り。寺床さんが求める、そのすべての要素を兼ね備えたトマト缶は、なかなかない。その時に手に入る材料でベストな味を出すために、寺床さんが採った方法。それは数種類をブレンドし、それぞれの足りない味を補い合うことで、理想の味に近づけるというやり方だ。

果肉が程よい大きさで残るよう、指先で加減しながら潰す。

現在は、酸味があるけれども水っぽく旨味が少ないトマトと、完熟して甘味が強く、味に重みがあるトマトの2種類をボウルで合わせ、手で潰していく。このときに重要なのは、均一に潰さないこと。完全になめらかなピュレ状にするのではなく、あえて果肉の塊を残すことで、トマトのフレッシュさを感じさせる仕上がりになるという。サルデーニャ産の塩を加えて完成したソースは、果実感の強い濃厚なトマトジュースといった趣だ。

トマトソースの美味しさをストレートに味わえるピッツァといえば、なんといってもマリナーラだろう。トマト、にんにく、オレガノ、オリーブオイルを使った、このシンプルなピッツァの意外な楽しみ方を教えていただいた。なんと一晩ねかせたものを、常温で食べるをいうのだ。

イタリア語で「マリネする」を意味する“マリナーレ”が訛って「マリナーラ」と呼ばれるようになったという説もある、このピッツァ。一晩、時間を置く=マリネすることで、にんにく、オレガノの香りとトマトソースが生地によくなじみ、焼きたてとはまたひと味違う、しっとりとした口当たりが楽しめる。「ピッツァの醍醐味は、熱々を頬張ること」。そんな思い込みを覆してくれる未知の味わいを、ぜひ体験してみてほしい。


寺床雄一/ピッツァイオーロ
1978年生まれ。ピッツァイオーロに憧れ、東京のイタリア料理店で働いたのち、技術習得のため渡伊。「イタリア各地に文化として根付いている郷土料理も学びたい」と、料理も含め合計7年間を過ごす。恵比寿「ポルセッコ」を経て、2011年2月にタランテッラ ダ ルイジをオープン。ニックネームのルイジは、ユウイチから転じてついた。

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山中 純