今国内で外科医の腕や病院の優劣を年間の手術件数で評価しようとする動きがある。確かに手術の件数はひとつの評価基準にはなる。だが、手術件数が必ずしも評価の基準にはならない疾患もある。現在、日本の肛門科では約40%の患者が痔の手術を受けている。ところが、米国では手術の率はわずか4%、ドイツでも7%にすぎない。どうも日本の肛門科は手術をしすぎるのではなかろうか。

日本では「3人寄れば“痔主”が1人」といわれるほど痔で悩んでいる人が多い。ところが、多くの人は「肛門科へ行くと、すぐに手術をされる」という心配から受診を先延ばしにしがちである。実際、諸外国に比べ、受診の段階で、すでに手術が必要なまでに症状が悪化しているケースが多い。そのため、また手術件数が増えるという悪循環に陥っているのだ。

痔には、大別すると「痔核」「裂肛」「痔瘻」の3つがある。

痔核は「いぼ痔」ともいわれ、肛門周囲の血管の病気だ。できる場所によって内痔核と外痔核に分けられる。便秘で固い便をいきんで出す習慣を20年、30年と続けていると血管網がうっ血して膨らみ、その周辺の組織が血管網を支えきれなくなって肛門から出たりする。肛門と直腸を区分けする歯状線の内側に痔核ができるのを内痔核、外側にできるのを外痔核という。

裂肛は肛門の外傷ともいえる疾患で、歯状線よりも外側の肛門上皮が切れ、痛んだり出血したりする。いわゆる「切れ痔」である。痔瘻は「あな痔」とも呼ばれる。歯状線にある肛門腺窩というポケット状の部分に便が詰まり、免疫力が低下しているときに大腸菌などに感染すると、肛門腺が炎症を起こし化膿してしまう。これを放っておくと、その部分の細胞が異常増殖して、まれにガン化することがあるので、この場合は手術となる。

男女ともに最も多いのが痔核で、疾患の60%を占めている。その中でも、慢性化しやすい内痔核は症状によって次の4段階に分類される。

I度……排便時に出血するが、内痔核は脱出しない。
  II度……排便時に内痔核が脱出するが、排便が終わると自然に戻る。
  III度……排便時に内痔核が脱出し、指で押さないと戻らない。
  IV度……排便に関係なく、内痔核は脱出しっぱなし。

III度を超えると手術が必要になるケースも出てくるが、I、II度であれば生活習慣を改善することで症状も改善する。

ポイントとしては「快食、快眠、快便」「座りっぱなしなど同じ姿勢を長く続けない」「体を冷やさない」「ストレスを上手に解消する」「香辛料やアルコールは控えめに」「排便後のお尻のケアは温水洗浄を心がける」などがある。

痔を“生活習慣病”と言い切る医師もいる。生活を改善するような教育指導を行ってくれる医師と二人三脚で歩めば、不要な手術を受けることもなくなる。

食生活のワンポイント

痔の最大原因は便秘である。便秘を解消するには、食物繊維を積極的に摂取することだ。理想的な摂取量は成人で1日25グラムである。ところが、現代の日本人は食生活の欧米化で、平均1日15グラム程度しか摂取できていない。食物繊維は、野菜、果物、豆類、いも類、きのこ類、海藻類、こんにゃくなどに多く含まれている。

ポイントは、豆類、海藻類、きのこ類を上手に摂ることだ。たとえば大根おろしと、焼き椎茸やナメコ、シメジを和える。ひじき、おからも食物繊維の宝庫である。ワカメや昆布料理はおいしいうえ、繊維が多い。枝豆や納豆もお勧めである。同じ豆製品の豆腐を食べるなら、絹ごしよりも木綿豆腐を選ぶとよい。今が旬のフキ、そら豆にも繊維が多く含まれる。これにヨーグルトを加えると、腸の中の善玉菌が増え、食による便秘解消は大いに促進される。