出世して立派な役職に立つほど、人前で喋らなくてはいけない機会が増えていきます。そのとき、どんな話題を選べばよいのでしょうか。

私の芸の基本は、笑わせながら「ああ、そうだな」と思ってもらうことです。聞き手を手っ取り早く共感させるには、世相がいい。

安倍首相は7年前、あんべえ(按配)が悪いとお辞めになった。一体どこが悪かったのか。よく調べたら、シンゾウが悪かった。

だけど政治は人によって支持政党もあって扱いにくい。ならば今、共通の話題になるのは不景気です。昔ベンツに乗っていた方がベンチに座っていました。昔ロールスロイスに乗っていた方が火の車に乗っていました。10年前、「10年後を見てろ」と言っていた方に10年ぶりに会って、「2000円貸して」と言われました。

「なるほど。この話をそのまま使えばいいのか!」

そう膝を打ったのは、さっき勘違いしたあなたではありませんか。説明書をよく読まないで、奥様に怒られていませんか。

ただの作り話は、笑いが薄いんです。ウソの話を作って本当のように聞かせるのは、結構な腕が必要。一般の人がマネするのは容易ではありません。だから真実を、自分の体験談を語ればいい。

しかし体験談はついつい自分が気持ちよくなる話をしてしまいがちです。

株で何億円儲かったとか、絶世の美女とつきあったとか、そんな話は誰も聞きたくありません。みんなが聞きたいのは、株で何億円も損した話であり、家に帰れば女房が待っているといった失敗談なのです。

さっきのキャバレー話も、私が失敗した話だから、聞いている方は楽しめるんです。

そうやっていい気分になってもらって、最後に「いろいろあったけど、頑張って生きてきてよかった」「こうやって元気でいられることが幸せです」と自分をちょこっと褒めてあげる。あまり卑下しすぎても、相手に気を使わせてしまいます。何事もバランスが大事です。