熟慮断行。断じて行えば勝つ。それ以外に勝つ見込みがないという条件なら、味方全員が反対しようと、万難を排して実行する以外ないのだ。

1980年に、1杯150円(当時)の低価格コーヒーチェーン「ドトールコーヒーショップ」を始めた。その後の主力業態である。しかし、当時はコーヒー焙煎・卸に加え、1杯300円ほどの従来型の喫茶店「カフェコロラド」を展開していた。

低価格チェーンを始めれば、従来の取引先はみな反発する。単価が安いので利益も出ない。やめたほうがいい。信頼できる友人もそうアドバイスをしてくれたし、社内も反対一色である。

しかし、低価格チェーンに進出しなければ、カフェコロラドをはじめとして社業は必ず行き詰まると私は考えていた。コーヒー豆の相場高騰や地価高騰により、1杯のコーヒーも値上げせざるをえない時代が続いた。その一方、オイルショック後の可処分所得の低下で、サラリーマンも負担なく手軽に飲めるコーヒーを求めている。だから、やるしかない。私の考えはシンプルだった。

あのとき勝負に出ていなければ、売り上げ2位、利益1位のコーヒー会社に成長することはなかったはずだ。

(10年8月30日号 当時・名誉会長 構成=面澤淳市)

楠木 建教授が分析・解説

どんな商売もいつかは必ず行き詰まる。避けて通ることはできない。しかし動けない。出光興産・天坊昭彦氏の石油業界でも、いずれ需要が落ちることは皆頭でわかっていても石油生産を下げることはできなかった。
(※前回記事参照 http://president.jp/articles/-/12317

今の日本の携帯電話業界もそうだろう。普及型の携帯電話は「いつか行き詰まる。これは何ともならない」と皆が内心思っていながら、今はまだ利益が取れるから誰もそうは言わない。言ってはいけないことになっている。

鳥羽氏が従来の業態が絶対に行き詰まると確信したのは、超能力でも先見性でもなく、当たり前の理屈で考えたからだ。

大事なのは、そこから動けるかどうかである。周囲の反対を押し切って、低価格コーヒーチェーンへの進出を鳥羽氏が決断できたのは、創業社長であり、将来が今の自分とつながっているという「自分事」感覚を備えていたからだろう。他人事でしか将来を考えられない人は、組織のトップに就くべきではないと思う。

一橋大学大学院国際企業戦略研究科(ICS)教授 楠木 建
1964年、東京都生まれ。92年一橋大学大学院商学研究科博士課程修了。2010年より現職。著書に『ストーリーとしての競争戦略』『戦略読書日記』。