「トヨタショック」を乗り越え、トヨタ自動車は業績を回復させ、復活してきた。果たして、このトヨタの復活は本物なのか。気鋭のジャーナリストが徹底検証する。

復活したトヨタに「死角」はないか

「トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー(TNGA)」は生産改革とも連動している。部品や構造の共通化を推進することで、一つの部品を大量に効率的に生産する必要性が高まるからだ。たとえば生産ラインで固定具として使う「治具」の共通化を進めた。エンジンのシリンダーヘッド加工の治具は、それぞれのエンジンごとに治具が存在していたのを、多軸から一軸化したことでトヨタの直列4気筒エンジンであれば一つの治具ですべてに対応できるようにした。この結果、治具の取り換えに約4時間必要だったのが、20分で済むようになった上、治具の軽量化にも成功。治具への投資コストも4割近く削減できたという。

TNGAとは、開発や生産、流通にいたるまで、上流から下流、すべてを見直すことで「バリューチェーン」全体の最適化を図ることでもある。そして影響を大きく受けるのが系列下請け企業だ。部品やアーキテクチャーの共通化が進むことで、複数の車種でまとめての発注となるからだ。さらに、これまでは同じ部品であっても国・地域別に発注先が違っていたが、原則としてグローバル規模でまとめて発注する仕組みに変わる。たとえば、トヨタはコネクター類の単純部品でも「専用規格」を設定してトヨタ向けにカスタマイズした部品を系列から購入してきたが、設計を見直すことで汎用部品が使えるようにする。これにより、系列以外でもトヨタとの取引がしやすい環境ができる。

「いい車」とは、顧客の価値観によってさまざまだ。廉価な車を求める人もいれば、価格は関係なく走りの良さや内装の贅沢さを追求する人もいる。また商用車は用途によって、使い勝手が違う。グローバルな視点で見れば新興国市場の拡大などによって顧客の価値観の多様性はさらに増している。フルラインメーカーであるトヨタは、その価値観に対応していかなければ顧客を失うことになる。しかし、原価を下げることと、商品力を強化することは、設計など仕事の進め方で両立できない面があった。それをゼロベースから見直し、両立させるのが豊田社長が就任以来訴え続けてきた「もっといい車造り」なのだ。