「絶対に大丈夫」と誰かが言い切らないと組織は前に進まない

USJ社内の廊下に掲げられていた社員へ向けた啓蒙のポスター。

相手の気持を察するのが美徳とされてきた日本人には、褒めるのが苦手な人も多い。これはP&Gで働いてきた森岡の、外資仕込みのテクニックといえるだろう。

逆に、自分を表現する時は、“毒の部分”を大切にする。

たとえば森岡は、2011年の10周年開始直後から、パークで働く全従業員に向けて、毎日SNSで日記を配信している。会社が進んでいる方向性を全員が理解し、自信に変えてもらうこと、そして一人一人が「バットを振れる」ように企業風土を変えることが目的だ。

オープンする新しいアトラクションへの期待感や、時にはリーダーシップをとらない中堅社員への苦言まで。「ズケズケ」という言葉がしっくりくるような生の声を発信する。

自分を飾らず、人間臭い“毒の部分”を全開にすることで「自分と同じ普通の人間なのだな」と理解してもらい、距離感を縮めようというのだ。しかし、発言する際の注意点がある。

「自分をさらけ出すとはいっても、心の中にある心配や弱気は封印します。彼らが自信を持って目の前の仕事やゲストと向き合うためには、誰かが、この場合は私が『絶対に大丈夫だ』と断言しなくてはいけないのです」(同)

テーマパーク業界では、当たるか当たらないか、結局のところ“やってみないとわからない”ことも多いという。森岡自身は夜も眠れないほど心配で、血尿が出るほどストレスをためた時期もあったそうだが、部下の前では一貫してポジティブなメッセージを発信し続けた。

そのうちに“森岡イズム”が浸透し、ひとつの成功に満足せず、「さらに上」を目指す意欲的な社員も増えた。仏と毒の作戦が功を奏し、現場のクルーたちからもホットな情報が上がってくるようになったという。頼れる上司の役割を全うした結果である。

“やってみないとわからない”業界で当て続けてきた輝かしい戦歴は、森岡のマーケターとしての実力の表れだろう。次回は、一番の得意分野であるマーケティング術から、初心者にも応用しうる方法論を紹介する。(文中敬称略)

「USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?」
(角川書店刊)


今回インタビューしたUSJのV字回復の立役者・森岡毅氏が約3年間の復活のプロセスを執筆したビジネス書。独自のフレームワークを駆使したアイデア発想法など仕事で使えるスキルが満載。