話題になっていたものの、難しそうで敬遠していた本の数々。斯界の第一線で活躍する権威たちが、それら一見して難解そうな書の読み方を手ほどきする。

科学食わずぎらいなだけで潜在ニーズの高い良書

書店で科学書の棚に行ったことはありますか? 科学書って埋もれた名著が多いんです。単行本では売れなかったのに、文庫本化されたとたんに売れる本があります。文庫本の棚には大勢のお客さんがいて、その人たちは科学書にも興味を持ってくれる。潜在的な読者はいるのです。

それに難解だと思われがちですが、わからない部分は流してしまえばいいんです。30%しか理解できなかったとしても、それだけ新しい知識が増えたわけですからそれで充分。

この3冊は名著揃い。ここで紹介しないと、ビジネスマンは一生読まない本ばかり(笑)。たとえば、『はじめての現代数学』は、学校で勉強した数学とは異なり、数学者が扱っている世界を紹介したものです。

現代数学は、物事の抽象化を繰り返すことで、その本質を抜き出していくもの。論理を突き詰めると、悟りの境地に似てきます。また、具象画から抽象画へ変容した現代アートのようなものでもあります。

ところで、人間は少し苦労したほうが理解できるもの。これらの本はバスに乗るのではなく、自らハンドルを握る感覚。自分で運転すれば、途中の景色も頭のなかに入ってきます。科学書の棚に行くと、新たな発見や発想が得られるはずです。

■コーヒーカップはドーナツ?

『はじめての現代数学』
   瀬山士郎/ハヤカワ・ノンフィクション文庫

一見、近寄り難い数学や物理。20世紀に入って発達した現代数学の特徴は「モノからコトへ」。学校では教えてくれなかった、現代数学の「コーヒーカップはドーナツだ」といった奇妙な表現も飛び交う世界をナビゲートする。「これを読むことで初めて、数学者が本当にやっていることが本質的にわかるようになります」。