CEOとの場外乱闘

グレンとの議論は時にヒートアップし、場外乱闘のように意見をぶつけ合うこともあったというが、感覚だけでなくきちんとした数字を提示し、アイデアを次々に当てていく森岡の実力を認めたのだろう。徐々に森岡の意見に耳を傾けるようになり、最後には「GO」サインが出たという。

「最終的にグレンの心を動かしたのは、私の情熱だと思います。これは一般論ですが、上司というのは本当に可哀想な生き物なんです(苦笑)。悩みもしがらみも責任も多いうえ、決断する立場なのに部下ほどはプロジェクトのことを理解していません。そのため、部下の情熱こそが“迷い”を情緒的に越えさせ、決断への自信を育む唯一の踏み台になるのです」

部下も「失敗した時に世界中から指をさされ、信用とプライドが砕け散るリスクを背負わなければいけない」と森岡は言い添える。事実、森岡のUSJでの4年間は、ハイリスク・超ハイリターンの連続だった。

「ハリー・ポッターのプロジェクトを押し出しつつ、そこに大きく投資しながらも、わずかな投資で集客を伸ばし続けなければいけない3年間は、非常に厳しい道のりでした。震災後の集客減はもっとも手痛く、翌朝のゲストの入りを見た時は、全身から血の気が引いていくような気がしました。そんな窮地を乗り越えられたのは、他にどれだけ反対意見があっても私に『GO』を出し続けてくれた器の大きいグレンと、突然やってきたモンスターのような私についてきてくれた同僚や部下のおかげです」(同)

最大の壁だった上司を最大の味方にした森岡だが、「非常に厳しい3年間」は、既存のUSJのやり方へのテコ入れの連続でもあった。次回は、新参者の管理職として、いかにまわりを動かしていったのか、森岡の部下に対する人心掌握術にフォーカスしよう。(文中敬称略)

「USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?」
(角川書店刊)


今回インタビューしたUSJのV字回復の立役者・森岡毅氏が約3年間の復活のプロセスを執筆したビジネス書。独自のフレームワークを駆使したアイデア発想法など仕事で使えるスキルが満載。
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