都心の池袋にある武蔵野調理師専門学校の夜間部もその一つ。修学期間は1年6カ月。卒業すれば調理師免許が付与される。同校の大野強教務部副部長は「調理理論や栄養学をはじめ衛生法規や食品学などを学びます。学校の定期試験が国家試験に代わり、卒業と同時に申請すれば免許を取得できる」と語る。

1年半の入学金・授業料は教材費込みで約115万円だ。同校の夜間部の学生は50~60人。うち社会人や定年退職者などが約7割を占める。

「外食産業界への転職を目指す人もいれば、定年後のセカンドステージとして起業を目的に入学する人もいます。40代以上の中高年は全体の2割弱。会社員でもいつ職を失うかわからない時代ですから、いざというときの備えとして調理師免許を持っていたいという人もいます」(大野副部長)

学校に通うことのメリットの一つは就職先の斡旋だ。大学生のように自ら何社も受けて内定を取る方式ではなく、学校推薦の形で就職先を紹介される。就職先はホテル、レストラン、個人経営の店など様々だ。

しかし、就職できても中高年にとっては厳しい現実が待ち受けている。

「この業界は修業中の“中”が取れるまでは非常に大変です。料理の技術的レベルが高いところほど、労働環境が厳しくなる。1日12~14時間働くのは当たり前ですし、しかも自分より年下の若い人に怒鳴られながらの仕事です。サービス業なので土日も出勤しないといけませんが、そのわりに給与が低い。就職に際しては本人にも労働条件について確認を取って紹介します。ですが、実際に働いてみると、結果的に『無理でした』と辞める人も少なくありません」

給与は専門学校卒の20歳の新人で17万円程度が相場だ。これは10年、20年先の将来の成長に期待を込めた金額であり、定年前の世代は15万円ないしは店によっては10万円程度しかもらえないところもある。

しかし、ものは考えようだ。現役時代に学校に通い、定年前後に本格料理店に再就職し、2~3年は辛い修業に耐えてその後に起業するのも夢ではない。大野副部長は「修業は早ければ早いほどよい。そこでの経験をベースに自分なりのコンセプトに合ったお店を持つことは可能です」とアドバイスする。