新しい地政学の時代に入った

ロシア軍の一部は、クリミア半島のウクライナ国境付近から、撤退を始めた。
(ロイター/AFLO=写真)

ロシア編入の是非を問うクリミアの住民投票では、実に97.47%がロシアへの編入を望んだ。クリミアにはウクライナ系住民が26%、コサックが13%いるから、39%が住民投票をボイコットしてもおかしくないが、投票率は83.1%。ということはかなりのウクライナ人やコサックが住民投票に参加したということ。しかも97%がロシア編入に賛成だ。財政破綻目前の混乱したウクライナに留まって貧しい生活をするより、ロシアできちんと年金をもらえる生活を、投票したウクライナ人やコサックの多くも望んだのだ。欧米やウクライナ暫定政府は住民投票を「ウクライナ憲法に反する」として認めていないが、それもおかしな話だ。

ウクライナ憲法には「分離独立は全州の投票を前提とする」と書いてある。ウクライナ全土で国民投票をやれば、ロシアに戻ろうとするクリミアの独立に「NO」をつきつけるのは目に見えている。つまり、全州の投票を前提にすれば、分離独立など永遠にできない。スコットランドは今秋、投票によってイギリスから分離独立を目指している。独立するかどうかを意思決定するのはイギリス国民ではなく、スコットランドの人々だ。

コソボのセルビアからの分離独立も、コソボの人々の自主的な判断によるものだった。当時、セルビアのスロボダン・ミロシェビッチ大統領は「独立は許さない」と息巻いていたが、EUから「邪魔立てしたら加盟審査をしないぞ」と脅されたのだ。

02年、東ティモールがインドネシアから分離独立したのも同じパターン。つまり欧米がクリミアの住民投票を認めなければダブルスタンダードになってしまうわけだ。ウクライナ情勢を冷静に見ていると、プーチン大統領のほうが理詰めで行動しているように感じる。

ロシアはクリミアの編入コストを約3000億円と試算しているが、あまりいい条件でやると東ウクライナでも独立、編入の問題が出てくる。ロシア人の割合はクリミアほどではないが、ロシア語を母国語とする住民が8~9割いる。東ウクライナにまで分離独立、ロシア編入の動きが広がれば、ロシアとしては対応せざるをえない。そうなれば国際社会の反発が強まるのは必至だし、ロシアの財政負担も飛躍的に大きくなる。

クリミアを逆戻りさせずにウクライナ情勢を鎮静化させる道を、プーチン大統領はウクライナの「連邦化」だ、と捉えている。つまり残るウクライナ部分は人種や言語を中心に州別に自立させ、大きな裁量範囲を持った自治州の集合体としての連邦運営を提案していく。アメリカ合衆国やドイツ連邦に近い、州に大きな裁量権のあるコンセプトで、これなら欧米も反対できないだろう。オバマの弱体化と反比例し、プーチン一人の計算や指導力が効果を発揮する新しい地政学の時代に入ったのかもしれない。

(小川 剛=構成 RIAノーボスチ、ロイター/AFLO=写真)
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