しかしイギリスやドイツが軍事不介入を決めるなど国際社会の同調を得られずにアメリカの単独武力行使の色合いが強まると、シリア攻撃に踏み切れず、結局、「シリアの化学兵器を国際管理下に置けばいいんだろ」というロシアのラブロフ外相の提案にEU勢がなびくと、オバマ大統領はすがりつくように同調してしまった。今はシリアの化学兵器を廃棄するための国際監視団に成り下がって、廃棄期限を越えたにもかかわらず作業を延々と続けている。

イランの核開発問題も同じパターンだ。当初は「あらゆる選択肢を排除しない」とオバマ大統領は軍事行動の可能性を示唆していた。しかし、昨年11月にイランと欧米6カ国の間で核兵器への転用が可能な濃縮度20%のウランの生産をイランが停止することを柱とした「第一段階」の合意が成立すると、オバマ政権はイランへの経済制裁を部分的に緩和した。

この手の合意は、時間稼ぎに使われては、破られるのが常だ。実際、イランにはウラン濃縮活動の停止に合意しながら反故にしてきた前科がある。欧米6カ国とイランは今年5月末までに包括的な合意を目指すというが、シリア情勢や中東和平とも複雑に絡み合っているだけに、一筋縄ではいかないだろう。

こうした煮え切らないアメリカの態度にいらだっている盟友であるはずのサウジアラビアのアブドラ国王は最近オバマ大統領と2時間会談した後の夕食会をドタキャンして険悪な状況になっている。スンニ派とシーア派の対立構図を理解していないアメリカはイラクからスンニ派のサダム・フセインを排除して多数派であるシーア派の支配する国をサウジの隣国として「献呈」してしまった。それだけではなく、イランとも話し合いで制裁緩和、と軟化している。

これはイスラエルにとってもサウジにとっても、「アメリカ、どうなってるの?」という深刻な問題で、オバマ大統領のつくり出した中近東の真空状態はもはや地政学の問題ではなく、オバマ大統領のキャラや素材・資質の問題まで遡らないと理解できないくらいの惨状となっている。