お客様の心情を察するには

ホルスト・シュルツ氏

サービスに従事する人にとって、サービスの基本やマニュアルを体得しておくことは不可欠です。しかしそれだけでは、お客様の望むサービスを提供することはできません。お客様に最大限の満足をしてもらえるよう、シュルツさんはスタッフに、お客様の潜在要求を、お客様自身が認識するよりも先に気づき、ベストのタイミングで提供するよう求めます。こうしたサービスの実現には、お客様の心情を察知する感性――お客様の言葉にしない声を聞き、表に現れない表情を読み取る力が問われます。

第1回(http://president.jp/articles/-/12285)でご紹介した、私が大事な荷物をタクシーのトランクに置き忘れてしまった時のことをもうすこし詳しくお話しします。私は別の国で緊張を伴う仕事を終え、数日間ほとんど寝ていない疲れ切った状態で、シンガポールのチャンギ空港に到着しました。そこからタクシーでホテルへ向かい、到着し、部屋に案内され、一息ついてから荷物をとり出そうとしたらキャリーバッグがありません。真っ青になってタクシー会社に連絡をしようにも、いつもならタクシーに乗れば必ずもらっているレシートを、その時に限って受け取っていなかったのです。

ゲストサービスに電話をしたとき、私はショック状態でした。その私に対し、電話に出た女性スタッフは、私がタクシーのレシートも持っておらず、タクシー会社を調べる手がかりとなるタクシーの色さえも覚えていないということを確認した上で、「私たちが必ずお荷物を見つけて、野崎様のお手元にお戻ししますので、どうぞその間、お部屋でごゆっくりおくつろぎくださいませ」と言ってくれたのです。口調は終始、穏やかで思いやりに満ちたものであり、なによりその言葉は、私がその時いちばん言ってほしかったものでした。そして、その言葉通り、スタッフは荷物を私の手に本当に戻してくれました。私の心情を察し、私の望むベストの形で、私の要望をかなえてくれたのです。