2014年4月18日(金)

「ナポリピッツァ」旨さの秘密【1】生地

dancyu 2012年3月号

文・安井洋子 撮影・石井雄司 教える人:青木嘉則(「ピッツェリア ダ アオキ タッポスト」ピッツァイオーロ)

デリバリースタイルのアメリカンピザの影響で、われわれ日本人はトッピングが大好きだ。あれもこれものっけてしまい、あれはあれでやっぱり旨いと思う。
でも、ナポリピッツァでは、そうもいかない。クラシカルなメニューは、初めて見たときには、ちょっとしみったれてるな、と思うほど具がシンプルなものだ。というのも、ナポリの日常食であるピッツァは、まず安くて旨いことが求められる。その帰結として、材料はシンプル、そして生地がとびきり旨いことが最重要課題なのだ。

完璧な生地は冷めても旨い!

しっとり艶やかな生地づくりがカギ!

「ピッツェリア ダ アオキ タッポスト」は、持ち帰りのピッツァにも定評がある。

「冷めても美味しい、との声も多いんです。もちろん、ピッツァは焼き立てが一番。とはいえ、生地が良い状態なら、結果的に冷めても味は保たれるはずです」

そう、青木さんは断言。では具体的に、良い生地とはどういう状態のことだろうか。その話をする前に、ここではまず生地のつくり方を大雑把に説明しよう。基本材料は小麦粉、水、塩、酵母の4つ。それを専用ミキサー(手ごねの店もある)でこね、熟成&発酵させる、以上。と書けば簡単なようだが、粉ものは化学の世界だから一筋縄ではいかない。

熟練の技で生地を均一にのばす。

生地の独特の食感は、グルテン(コシ&モチモチ感)と気泡(ふっくら感)が2本柱となってつくられる。

そもそも、グルテンとは小麦粉のタンパク質の一種だが、最初から小麦粉の中に存在してはいない。水を加え、こねることで、粘りと弾力のあるグルテンが生成される。つまり、水分量やこね具合のさじ加減でその出来が左右されることになる。青木さんはしっかりしたグルテンの生成のためにこねる時間を長めにすべく、材料を冷やした上、低速で基本の倍の時間こねるなど工夫している。

このこねる作業がうまくできれば、生地はきめ細い気泡の詰まった艶やかなものになる。そうなれば酵母もまた働きやすくなり、発酵の過程で均一に生地を引きのばす。「きちんと生地が仕上がれば、その日は1日気分がいい」と青木さんも笑うくらいだから、生地づくりは相当神経を遣う作業なのだろう。

ウチに持ち帰っても軽やかな生地は健在!

また、ベストな状態にでき上がった生地を100%生かすためには、のばし方と焼き方にも重要なポイントがある。

「生地は均一の厚さにのばしています。グルテンがちゃんと生成された生地なら、ある程度均一にのばしてもソースを塗らない縁は自然に膨らむものですから」

そして焼くときは、いかに芯まで火を通し、かつ水分が抜けすぎぬよう短時間で焼き上げるかが勝負。そのための最適な温度は「肌で感じ取る」から、1年中二の腕の出るTシャツで窯場に立つ。熱いから、という理由ではないのだ。

こうしてうまく焼けたピッツァは、軽やかでふわっとした食感を備え、冷めても旨い。グルテンを細かな気泡が柱となって生地を支えるため、独特の食感が残るからだ。見た目の豪快さとは裏腹に、美味しいピッツァの秘密は、随所の見極めと繊細な仕事の裏に隠されていた。


青木嘉則/ピッツァイオーロ
趣味の車に魅せられイタリアへ旅行した際、ピッツァに開眼。輸入商社のエンジニアから一転し、イスキア島「ダ ガエターノ」で半年間の修業。1999年に「タッポスト」を開店した。2010年3月には豊島園駅前に、ガス窯を設置し、バールと酒販店、惣菜店を兼ねた2店目「タッポスト チャオラ」を開いた。

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安井 洋子