昇格が遅れても再チャレンジのチャンスあり

ちなみに旧電電公社や国鉄時代には、国家公務員のキャリアに近い「本社採用」の新卒者は他の大卒に比べて昇進のスピードが速く、入社時点で格差がついていた。もちろん今はそういう仕組みはない。また、比較的離職率が高いとされる情報通信業界にあって同社の離職率は低い。09年入社の社員で辞めた社員はわずか1人で、社員全体での離職率も1%強という低さである。

全員野球の精神は入社後のジョブローテーションだけではない。「昇進・昇格」「給与」「雇用」の3つでも貫かれている。

一般的に役職(ポスト)と給与の額は連動しているが、同社の場合は、給与は社内資格(等級)と連動し、資格と役職とは必ずしも一致させていない。これは職能資格等級と呼ばれる日本企業の年功的な給与決定方式だが、競争の激しいIT・通信業界にあって今でも堅持している企業は珍しい。

当然、優秀な人材でも昇格が難しく、抜擢人事も少ないという問題点も残る。しかし、同社は資格や年齢に関係なく役職に就けるなど“仕事の与え方”でモチベーションを引き出す手法をとる。

「仕事を任せるのに必ずしも資格にこだわらず、たとえば前任者がやっていた仕事を一つ下の資格の社員が担当することもあるし、その逆もあります。極端にいえば、部長になっても昇格とは別であり、給料が上がるわけではありません。こいつはと思う人間に、一歩上の仕事をやらせて期待通りの成果を出せば、次の昇格のタイミングで上げる可能性はあります」(田中部長)

同社は20代後半から新規事業を担当させることで知られる。若くして重要な仕事を与えることで本人の意欲と能力を引き出す風土は今も健在である。

もちろん、年功的とはいっても「昇格基準」はある。過去数期の人事評価で一定の評価ポイントに達した者を昇格させるという他社同様のルールを設けている。この基準により同期との差が徐々に開き、昇格が遅れた社員はなかなか這い上がれないというのが日本的企業の組織風土でもあった。

しかし、田中部長は昇格が遅れた社員に再チャレンジの機会を与えることが重要だと指摘する。

「昇格が遅れたら遅れたままというのでは当然モチベーションも下がります。また、人事評価にしても評価するのは上長ですから人事部が全部見ているわけではありません。たとえば上司とちょっとうまくいかなかった、あるいは仕事が合わなかったために遅れている可能性もあるわけです。昇格が遅れていても、異動先では努力して、それなりの成果と評価を得ている人など、研修を含めたいろんなアセスメントを通じて、この人ならと思えば追いつかせていいだろうし、そうしていきたいと思っています」

昇格する、しないは評価もさることながら、働く意欲など個人の事情も大きい。再チャレンジの機会をつくることで社員のモチベーションの底上げを図りたいという思いがある。