社長に就任して間もない2003年には兵庫と沖縄、2カ所の製油所を閉鎖した。2度のオイルショックを受けて、石油依存率を下げるために省エネ法、代エネ法ができたのは30年も前のことだが、石油は使い勝手がよく値段も安いため、日本の石油需要はバブル崩壊後も1999年まで伸びていた。いずれ需要が減ることはみんな頭では理解していたが、戦後一貫して右肩上がりできた石油業界は、染みついた行動パターンからなかなか抜け出せない。頭のどこかで、「またいい時代がくるさ」と考えている人が多かった。

しかし、いまや脱化石燃料、CO2削減の時代である。いま製油所を止めなかったら、止める時はない。製油所の地元にはたくさんのステークホルダーがおられるから、止めれば多大なご迷惑をおかけすることになる。製油所を止めるには大変なパワーが必要だ。しかし、やりたくないことを先送りすると、余計やりにくい状態を招いてしまうことになる。

人間、何か新しいものをつくろう、新しい事業をやろうというときは即断即決できるものだ。しかし、マイナスの負荷をかけないとできないことには、どうしても腰が引けてしまう。私はそんなとき、後からくる人たちが嫌な思いをしなくて済むなら、私がそれをやろうと考える。どうせ誰かがやらなくてはならないのなら、いま私がやろうと……。

(10年2月1日号 当時・会長 構成=山田清機)

楠木 建教授が分析・解説

天坊氏の決断が素晴らしいのは、将来的な問題を今の自分の立場にひきつけて考えていることだ。

目前に問題が横たわっていても目をぶって、「私は2期4年だから」と自らの在任期間を大過なくやり過ごせればいいと考えるトップは少なくない。退任後ともなれば、会社や事業はどんどん他人事になっていくものである。しかし、天坊氏は、「どうせ誰かがやらなくてはならないのなら、いま私がやろう」と、まだ顕在化していない課題を他人事ではなく自分事と考えて、自らの決断で製油所を閉鎖した。

こうした決断をするためには時間軸の長さが必要で、未来を今の自分とつなげて考えられない人ほど「そのうち誰かがやるだろう」と問題を先送りする。将来を見据えられる人は、先送りのリスクもカウントできるものだ。

一橋大学大学院国際企業戦略研究科(ICS)教授 楠木 建
1964年、東京都生まれ。92年一橋大学大学院商学研究科博士課程修了。2010年より現職。著書に『ストーリーとしての競争戦略』『戦略読書日記』。