会社組織において最終的なデシジョン・メーキング(意思決定)を下すのは、トップの仕事です。しかし現代社会では、答えが一つしかないような問題はごくわずか。ほとんどの問題は二項対立を抱えています。そこで一方の選択肢を選ぶということは、もう一方の可能性を失うことを意味する。二項対立に悩む経営者に対して、決断を迫る覚悟があるかどうか。ロジックで答えの出せるケースばかりではありません。だからこそ、チャレンジ精神とパッションが求められるのです。

「プレミアムロールケーキ」などのヒット商品を生んだ「驚きの商品開発プロジェクト」も、そうしたパッションから始まりました。弁当では、800円程度の価値のある高品質な商品を500円程度で販売し、好評を得ています。しかし、初めから現在のような形で提案されたわけではありません。最初は、「何か一つ品質のいい材料を使う」という程度でした。そこから、「原材料を直接仕入れられないか」「製造工程を見直せないか」といった議論に繋がっていき、最終的には、「とてもコストに見合わない」といわれていたものが、「驚き」の価格で提供できるようになったのです。

(10年8月2日号当時・社長構成=小山唯史)

楠木 建教授が分析・解説

新浪氏がいうように、ほとんどの問題は二項対立を抱えている。あちらを立てれば、こちらが立たないというケースばかり。そこで決断するのがリーダーの大事な役割である。

「北へ行く」と意思決定すれば、それはすなわち「南へは行かない」ということ。それがトレードオフの決断である。北に行くとも南に行くともいわずに、「もっと早く行け」「もっと頑張れ」「もっと生き生き行け」などというのはよろしくない経営者だ。

資源も時間も限りがある中で決断するのだから、「これも取ろう」「あれも捨てがたい」というわけにはいかない。何かを選んで、何かを捨てる。家が近いのでしばしばお話しする機会があるのだが、新浪氏の決断の根本にはそういう考え方があるように感じる。

組織によっては全権を持っていないリーダーというのがいて、方々に気を使うので、トレードオフをはっきりさせられないケースがある。新浪氏が決断できる理由の一つは全権を持っているリーダーだからだろう。

一橋大学大学院国際企業戦略研究科(ICS)教授 楠木 建
1964年、東京都生まれ。92年一橋大学大学院商学研究科博士課程修了。2010年より現職。著書に『ストーリーとしての競争戦略』『戦略読書日記』。