出世は見込めず、そもそも会社の将来もどうなるやら。これからを考えるだけで、気持ちが滅入ってしまう――。ベストセラー『考えない練習』で読者から圧倒的な支持を得た名僧が、あなたの日頃の迷いに対して、考え方の筋道をわかりやすく説く。

一人暮らしの親が倒れたら、子どもが介護せねばならず、それは確かに大変なことでしょうから、不安になってしまう気持ちはわかります。けれども、福祉のシステムが整っていなかった昔ならばいざ知らず、現代においては、子どもは必ずしも付きっきりで親の介護をしなくてはならないというものではありません。

現代の「介護せねば」は、どちらかというと世間体を気にして、そう思うことが多いのではないでしょうか。周囲から「親の面倒をみないなんて、冷たい人だ」と思われたくないために、介護しようとする。そのような他人の目、世間体ゆえに行動することには、自分の評価を気にする「慢」の煩悩が働いています。

煩悩により「いい人」ぶって「偽善者」の仮面を被るのは、自分の心に害を及ぼすもの。自分の本心とは違う言動をすると、2つの矛盾した思考が無意識的に衝突し合います。これは多大なストレスの発生源となり、介護そのもののストレス以上に、心を苦しめてしまうのです。

もしも種々の事情で、どうしても親の面倒をみるのがつらい場合には、自分にとって有害な「偽善者」にならずとも、福祉に頼るという方法があります。

一方、面倒はみるつもりだけど大変だろうなと思うのであれば、あらかじめそうなったときの想定をしておくといいでしょう。親の要望を聞いたり、自分の事情を説明したりと、親とのコミュニケーションを緊密にしておくことも大切です。

また、老人ホームなどの費用が心配なら、自分はどれくらい負担できるかを、考えておくようにします。その場合にも、自分が快く出せる額を出せばよく、それ以上の額を、世間体を気にして、嫌々、しぶしぶ出すのはよくありません。自分から進んで差し出す行為は、自分の心を元気にしますが、嫌だなと思いながら出す行為は、心を疲れさせてしまいます。

親が倒れてしまうのが不安なら、親とのコミュニケーションをおろそかにせず、今のうちに親子関係をよくしておくことが、一番の対処法と申せます。

月読寺住職・正現寺住職 小池龍之介
1978年生まれ。東京大学教養学部卒。正現寺(山口県)と月読寺(神奈川県)を往復しながら、自身の修行と一般向けに瞑想指導を続けている。『考えない練習』『ブッダにならう苦しまない練習』『もう、怒らない』など著書多数。
(構成=岩原和子 撮影=若杉憲司)
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