しかし、うつ病の概念が広がりを見せるのと歩調を合わせて、うつ病を含む気分障害の患者数が急増しているのも事実で、厚生労働省の「患者調査」によると、1996年に43万3000人だったものが、2008年には104万1000人と2.4倍にもなりました。しかしながら、休職することにほとんど抵抗感を抱かず、初めから休職の診断目的で受診するタイプの方が、そのなかには相当数含まれていると推測することもできそうです。

加えて見過ごせないのが、精神科を標榜するクリニックの増加です。厚労省の「地域保健医療基礎統計」によると96年に全国に3198施設あった精神科のクリニックは、08年には1.7倍の5629施設になりました。特に増えているのが、東京、大阪、神奈川、千葉などの都市部です。

現在の日本の医療システムでは、昨日まで内科医だった医師でも、今日から精神科の治療ができます。精神科の専門医とか精神保健指定医でなくても、医師が希望すれば自分のクリニックを精神科として標榜し直すことも可能なのです。そのような状況の医師の方々も、真剣に患者さんと向き合っているものと私は信じています。

しかし、都市部では競争相手の多い診療科をやめて精神科を標榜し直し、経営の効率化を第一に考える医師が、少なからず紛れ込んできているようです。再診時の「通院精神療法」の健康保険の点数は、5分以上30分未満の診察だと320点。診療報酬は1点に付き10円ですから3200円になります。一方、診断書は保険の適用外で1通当たり3000~5000円が相場。そこで、つべこべいわずに患者さんの要望に合わせて診断書を出し、売り上げアップを図るクリニックが散見されるようになってきたからです。

実際に私が見聞した例に、治療に必要な休職期間を2カ月に区切って診断書を出している精神科のクリニックがありました。通常、うつ病が回復するまでには3~6カ月の期間を要します。当然、2カ月たった時点では、まだ回復していない公算が大きいわけです。そのとき「休職期間が切れてしまうから、もう1回診断書を出しておきましょうか」といって、改めて診断書の料金を請求しようというのでしょうか。