私の好きな成吉思汗の物語は、これまで多くの作家が手掛けている。いろいろな作品を読んだが、戦いそのものの過程には詳しく触れていない本書が一番好きだ。

広大な土地を制圧する途上、愛妾を亡くしたばかりの成吉思汗が、帳幕で贅沢な調度品と豪奢な食事を楽しむ部下の武将たちの姿を垣間見る。その彼が質素で暗い自分の帳幕に一人こもり、貧しかった一族を豊かにするのが己の望みであり、これでよかったのだ……とみずからに言い聞かせる場面が泣かせる。

リーダーという宿命を負った者は、周囲に何と言われようと自分の尺度を信じて前に進まねばならぬことも、全体最適のために一人耐え忍ばねばならぬこともあるのだ。