2014年3月20日(木)

フキ――万葉の時代から取り引きされていた日本古来の春告げ野菜

dancyu 2012年3月号

福地享子=文
【つくり方】
葉はしっかりとゆでて刻み、胡麻油で炒め、醤油と味醂をからめる。ご飯に混ぜて、お結びにするとおいしい。茎は下ゆでしてから筋を取り、油揚げと一緒に煮含める。フキには、なぜか油揚げが合う。

野に菜(さい)。菜とはおかず。古代人におかずという認識はなかったろうけど、野へ菜を求めて出た。自生するあまたの植物、そのなかから食べられるもの、口にしておいしいものが、野菜に昇格した。

フキもそのひとつ。漢字で書けば、草かんむりに路で「蕗」。あぜ路、山裾の路、今でも歩けばそこかしこで見るフキは、だから、早くから野菜となった。万葉の時代には、市で取り引きされていたらしい。日本古来の野菜が少なくなった昨今、いにしえの香りを残すのがフキだ。

ところでこのフキに、江戸も終わり近く、ちょっとしたうれしい事件が持ち上がる。愛知県知多半島。尾張の殿様の息がかかるこの地は、かねてから野菜の栽培がさかんであり、村の庄屋を務める早川平左衛門の畑では、フキをつくっていた。そのフキたるや、これまでと違ってきわめて早熟、味もいい。評判を呼んだのである。時は天保年間(1830~1844年)、すでに室に火鉢を持ち込んでの促成栽培もおこなわれており、初物人気が沸騰していたころだ。そこへ、市場にいち早く出荷してくる平左衛門どんのフキ、そりゃ人気をとるのも当然、今と変わりなし。以来、平左衛門どんのフキは、愛知早生フキとして、全国を凌駕する栽培フキとなったのである。

今でも愛知県はフキの一大産地。全国の流通量の半分ほどを占める。築地でも春の盛りに群馬県産などが顔を出すが、大半は愛知県産である。

ニラ、ウド、セリと春の野菜は香りで迫ってくる。寒さで縮こまっていた感覚を、解きほぐそうとするかのように。そんな春告げ野菜の筆頭がフキだろう。

大鍋に、たっぷりの湯をわかす。グラグラと湯がたぎる間、鍋の大きさに切ったフキを板ずりする。たっぷりと粗塩で。勢いよく湯気がたち、早く放り込めと、鍋が催促している。ソレッと放り込む。フッと湯気が消え、ガスの火全開、湯気が再びたってきたら、取り出し、冷水に放つ。筋をむく。柔らかな、若芽の色した緑。お初に食べるフキは、このまま斜めの薄切りにしてサラダにする。

爽やかな香りが喉や鼻孔を刺激する。早く冬の眠りから目覚めよと。香りだけではもどかしいのか、シャキシャキとした歯触りで、耳の奥にまで軽やかな音を運び、春を告げる。

あとはもう年を重ねたぶん、鈍感になった感覚を刺激するために、きんぴら、天ぷら、煮物と。大きく広げた葉も捨てるには惜しすぎる。ゆでて、細かく刻み、ごま油で炒め、醤油とみりんをジュッとやれば、けっこうな当座煮に。

葉っぱ炒めを混ぜたお結びに、フキの煮物など携えて、さ、野に出よう。

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福地 享子

かつて女性誌の編集者、その後、築地の鮮魚仲卸「濱長」の看板ネエサンとして大活躍。現在は築地の書庫「銀鱗文庫」役員。ここを拠点に、築地を走り回っている。