アジア開銀で得た「正しいことを貫く」

損害保険ジャパン社長 
櫻田謙悟
(さくらだ・けんご)
1956年、東京都生まれ。78年早稲田大学商学部卒業、安田火災海上保険(現・損害保険ジャパン)入社。2000年統合企画部長、05年執行役員金融法人部長、07年取締役。10年より損害保険ジャパン社長(現任)。12年より日本興亜損保との持ち株会社NKSJホールディングス社長を兼ねる。

1997年、人事部の特命課長として、人事制度の改革を手がけた。それまで安田火災海上保険(現・損害保険ジャパン)は、部長同士や支店長同士などは、職責や組織の規模に関係なく、処遇が同じだった。そこへ、実力主義を採り入れようというのが、人事部長の指示。アジア開発銀行での4年間の勤務から帰国して、40歳でその立案を担った。

当然、「横並びはおかしい」と思い、同じ部長や支店長でも、責任の重さや業容の大きさに応じて、報酬をABCの3ランクに変える案をつくる。ほかにも何項目か、改革案をまとめた。世界から人材が集まり、能力と実績によって評価が決まるアジア開銀の厳しい人事制度に比べれば、抑制したつもりだったが、社内には「大胆な案」と映ったらしい。

「エイリアンみたいなやつが、安田火災の企業文化をめちゃくちゃにしようとしている」。そんな声が出て、反対の狼煙が上がりかける。かなりの役職社員が、横並びの報酬制度で得てきた「既得権」を、失うことになるからだ。「あの案をつくったのはお前か」となじられ、急に口をきいてくれなくなる人も出る。

好んで人に嫌われたくはないが、嫌われること自体は、そんなに辛くない。嫌われて改革がダメになるなら仕方ない、とも思う。「まあ、そんなものか」という淡白なところがあった。でも、社内の空気を読んだ人事部長が、改革案をややマイルドに直させ、火消しに回る。自分も修正案を持ち、役員らに説明にいく。

「横並びの報酬のほうが、異動をさせやすい」。そんな反論も聞いたが、「実力主義に程遠い」と受け入れない。ある幹部のところで、いろいろな意見や手直し案を聞き、メモにして戻ったが、その多くは反映させずに終えた。すると、その幹部が人事部長にかみついた。