円相場が16年ぶりに1ドル=82円台に突入したのを受け、政府・日銀は9月15日に円売り・ドル買いの大規模な為替介入を行った。日本企業に対する悪影響が無視できないほど大きくなったからである。

円高による売り上げへの影響
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円高による売り上げへの影響

たとえば1ドル=100円のときに100ドルの製品が売れると、売り上げは円換算で100×100=1万円。しかし、1ドル=80円だと、同じ製品を売っても円換算では100×80=8000円の売り上げになる。そこで、同じ1万円の売り上げをキープしようとしたら、製品の価格を1万÷80=125ドルへ値上げする必要が出てくる。

しかし、それでは海外の消費者が納得しない恐れがある。かといって、価格を以前と同じ100ドルに据え置くのなら、(1万÷8000-1)×100=25%分だけ売り上げ個数を増やさなくてはならない。でも、結局、それすらままならないとなれば、円換算での売り上げ減を甘受せざるをえない。

これまで日本の輸出企業はこうした為替相場の影響を少しでも避けようと、生産拠点の海外移転を進めてきた。しかし、それでも決算に対する為替相場の影響が避けられない。ちょうど9月中間決算を取りまとめている時期でもあるので、経営者は頭を痛めていることだろう。

海外移転を進めても為替相場の呪縛から逃れられない理由は、海外の子会社や関連会社が連結決算の対象になっているから。議決権の過半数以上、つまり発行されている全普通株の過半数を親会社が持っている場合は、子会社として実質的に支配下にあるとみなされる。また同様に、20%以上の議決権を有する場合は関連会社とみなされる。

子会社、関連会社の収益は、その議決権の持ち分の割合分だけ親会社である日本本社の決算に反映される。例えば海外子会社に円換算で100億円の利益があり、親会社が60%の議決権を握っていれば、60億円が利益になる。子会社の売り上げや利益は親会社の損益計算書に合算され、関連会社の利益は「営業外収益」として計上される。円換算での売り上げ減が、これらの利益の減少につながるのだ。

「それではいっそのこと、本社の決算をドルベースで行えばいいのでは」という大胆な意見が出てくるかもしれないが、そうは問屋が卸さない。会社計算規則第57条には「計算関係書類に係る事項の金額は、1円単位、千円単位又は100万円単位をもって表示するものとする」と記載されている。

ちなみに議決権が20%未満の場合は、連結決算上の利益の加算はない。しかし株式は保有しているので、配当金を得られるほか、株価の変動で含み益や含み損も生じる。これらも営業外収益に計上され、その際に為替変動の影響を受ける。

そこで、本社の決算に与える為替変動の影響を極力減らしたいのなら、海外で稼いだ金は海外で使ってしまう。何も無駄遣いせよといっているわけではない。将来を見越した設備投資に充てたり、原材料の調達も現地で直接行う。要は円に転換する利益を抑えてしまうのだ。

それでも本社に配分する利益があるのなら、それを無理に円に転換せずにドルのまま保有して、期末までに残さず使ってしまう。ネット取引を活用すれば、備品などを海外から調達することは可能だろう。日本本社の社員の給与をドル建てで定める手も考えたが、「月給は固定で3000ドル」のような支給が、いろいろな意味で社員の同意を得られるか未知数である。

やはり為替変動の影響をできるだけ避けたいのなら、本社を海外移転し、現地で獲得した外貨は現地で投資・消費することだろう。そこまで為替で頭を痛めるのも、日本経済が外需頼みだから。新しい政権による内需回復政策に期待したい。

※すべて雑誌掲載当時