エジソンの例のように、子供がどんな能力を持っているかは、それを引き出してみないとわからないものだ。その一方、幼時からの早期教育によって、能力をつくり出すこともできるという例もある。

ミシェル・ド・モンテーニュ(amanaimages=写真) 
早期教育によってラテン語をマスター。

16世紀のフランスの思想家であり、『エセー』の著者として知られるミシェル・ド・モンテーニュ(1533~92)がそうだった。まだ乳飲み子の母国語も話せないころからラテン語を学ばされ、見事マスターする。

古代ローマ人が使っていたラテン語は、当時のヨーロッパの知識人のあいだで共通語になっていた。大学ではラテン語で講義が行われ、学者の論文やフランス政府の公文書さえもラテン語で書かれていた。社会でエリートとして活躍するためには必須科目だったのだ。

「わが子を立派な人間に育てるには、なんといってもラテン語を身につけることが必要だ」というモンテーニュの父親の考えは、けっしてとっぴなものではない。けれども、彼の方法は実に破天荒だった。6、7歳からラテン語教育をはじめたのでは遅すぎる。母国語を覚える前に、これを覚えさせるべきだと考えたのだ。

そのため、裕福な貴族だった父親は、フランス語がまったく話せないドイツ人のラテン語教師を高額の報酬で招き、さらに2人の助手をつけた。また、家族と会話するときでさえもラテン語しか使ってはいけないという特別な環境をつくって“ラテン語漬け”を徹底させた。

この早期教育は約4年間つづけられ、のちに普通の子供と同じように初等教育(小学校)でラテン語を学ぶことになるが、モンテーニュの語学力は傑出していた。当時のフランスの有名なラテン語の教授も、子供なのにあまりにラテン語が上手だったので、驚き恐れおののいたという。