「大増税」といわれる改正相続税の施行が、来年1月に迫っている。課税対象が広がるなか、ときに「争族」といわれる相続を賢く、スムーズに進める秘訣は──。辻・本郷 税理士法人の常務理事を務める木村信夫税理士に聞いた。

「相続争い」が
人ごとではなくなった

木村信夫 ●きむら・のぶお
辻・本郷 税理士法人 常務理事
税理士
1985年本郷公認会計士事務所(現、辻・本郷税理士法人)入所、1988年税理士登録。2003年、辻・本郷税理士法人理事に就任。現在、理事として相続部門、事業承継部門を統括する。『相続税実践アドバイス』(東峰書房、共著)ほか著書多数。
──来年1月、相続税の税制が改正されます。

【木村】まず、基礎控除額が現在の6割にまで縮小されます。例えば法定相続人が配偶者と子供2人の計3人の場合、今までは相続財産の合計が8000万円未満なら申告は必要ありませんでした。ところが来年1月から、相続財産が4800万円以上なら申告が必要になります。「東京など大都市圏に自宅がある人は、ほぼ全員が対象」。それくらいに考えておくべきでしょう。最高税率もアップし、富裕層にとっても厳しい改正になっています。

──相続では、「うちは兄弟仲もいいから」と油断するのは禁物と聞きました。実際はどうでしょうか。

【木村】遺産を法定分割する場合、兄弟間の相続額は同じです。しかし両親が2人とも亡くなり、子供たちだけで財産を分ける二次相続では、昔の話にまで遡ってもめることが少なくない。例えば家業を継いで休みなく働いてきた長男が、大企業に就職した次男に向かって「自分も安定した会社員になりたかった」と本音を漏らす。資産家に嫁いだ長女の自慢をいつも聞かされていた次女が、「姉さんはお金はあるんだから」と、より多くの財産を要求する。資産の多い少ないにかかわらず、こうした話は珍しくありません。

だからこそ、遺産を誰にどう分配するかの遺言は事前に用意しておくべきでしょう。実は遺言があっても、相続人の間で合意ができれば遺言とは別の形で財産を分けても構いません。遺言はあっても邪魔にならないし、何か起きたときにはないと困る。相続の準備として、まず対象となる資産を把握し、誰にどう分けるかを遺言にして、納税のための資金の有無も確認しておくといいと思います。