ロシアと中国の違いをさらに2つ述べておきましょう。4つは製造業です。中国の製造業は活気に満ちていますが、ロシアの工場は共産主義時代の無残な荒廃状態のままです。21世紀の工場にするための投資はあまり行われてこなかったわけです。それに対し中国では、未来を見据えて新しい工場が建設されています。

もう1つは重要な社会階層の形成です。ロシアには、資金はたっぷりあります(これも石油のおかげです)が、富の配分は帝政時代に逆戻りしたかのようです。ごく少数の人間が莫大な財を築いていて、大多数の人、とりわけ広大な田園地帯に暮らす人たちは貧困にあえいでいます。そしてその中間の人たちは事実上、存在していません。

それに対し中国には、ロシアの全人口に近い1億人以上の消費者層がいて、さらに拡大しつつあります。彼らの購買力が、健全で持続可能な経済をますます堅固に支えるようになるでしょう。

とはいえ私たちは、ロシアについてはひどく悲観的で、中国についてはすこぶる強気だ、という印象を与えたくはありません。両国とも壮大な実験のただ中にいます。ロシアは蔓延している違法行為やテロリズムという病との戦いには全体主義的アプローチを用いると同時に、資本主義と民主主義を混ぜ合わせたものを築こうとしています。中国は、個人の自由を制限する共産主義という上部構造の範囲内での市場主導の(自由)経済という、前例のない社会形態を築こうとしています。これら進行中の実験のどちらについても、今から10年後にどうなっているかは誰にもわかりません。50年後となるとなおさらです。

当面の話をすると、外国の投資家にとっては中国のほうが間違いなく有望です。第1に、中国の人口はロシアの10倍近くあります。第2に、中国の文化のほうが進取の精神に富んでいます。第3に、幅広い製造能力と技術力から、中国のほうが魅力的な輸出拠点になっています。

そして最後に、おそらくこれが最も重要な点でしょうが、中国はエレクトロニクス、医療機器、その他のテクノロジー産業など、未来の産業に力を入れています。ロシアの主要産業は石油を除くと機械と金属加工ですが、これらはどちらかというと過去の産業です。

だから私たち外国の投資家は、全体的に見て、ロシアには中国ほど夢中になりにくいのです。それでも、ロシアに進出するのが無謀とは言い切れません。非常に賢明な決断だった、ということになる可能性もあります。それは時間が教えてくれるでしょう。

中国についてはすでに結論が出ています。今日のグローバルな市場環境では中国に進出することは不可欠です。ロシアについては、経済が拡大している現状があっても、そうは言えません。しかし、あの国でビジネスをするリスクを吸収できるだけの経営資源をお持ちなら、進出されてもよいでしょう。

(回答者ジャック&スージー・ウェルチ 翻訳=ディプロマット (c)2006. Jack and Such Welch. Distributed by New York Times Syndicate.)