法人営業でぶつかった大きな壁

その後、外食チェーンが勢いを増す中で新たに法人営業専門の部署が創設され、私も配属されました。

そこで最初の大きな壁にぶつかります。酒店営業は愛嬌と情の世界で、酒屋さんの大将、奥さんとの会話も「今度近くに美味しいお店が出来ましたね」といった世間話に近いものでした。

ところが法人営業となると、サントリーグループのリソースを使ってどう相手企業の課題を解決していくかが問われます。会話の内容も財務戦略や市場マーケティングの話になってきます。言葉はわかっても何を意図しているのか私にはきちんと理解できませんでした。大きな取引がうまくいかないことがあり、このままの自分ではダメだと思いました。

そこで土日を返上し、ビジネススクールに通いました。仕事と勉強の両立は、確かに大変でしたが、時間は何とかなるものです。1時間早く起きて時間を作り、電車の中も学習時間としました。週末をグダグダと過ごすこともなく、振り返れば人生の中で一番生産性の高い時期だったと言えるかもしれません。ただし家事は放りっぱなし。夫の全面的な協力には感謝しています。

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庵原さんのキャリア年表

役員は目指したわけではありません。出世ということよりも、やりたい仕事がしたいという思いでした。ずっと営業をやってきて、外食事業に携わろうと願っても商品開発やマーケティングはすでにプロパーで経歴の長い人がいるので、経営層での出向の道しかなかったのです。幸いサントリーは「やってみなはれ」の企業文化があり、チャンスをもらえたことはありがたく思っています。

法人営業でぶつかった壁より、役員の今のほうが壁は重たくなっています。昔はオンとオフの切り替えがうまかったのに、今は土日も仕事をしてしまいますし、常に仕事のことが頭から離れません。どんなコミュニケーションをとれば相手といい関係が築けるか、この組織をどういう方向に持っていけばパフォーマンスが上がるか……。飲食産業の中でもFCはピープルビジネスと言われます。そのとおりで、人に関わる課題をいつも考えています。