雪の札幌で試供品のアイスを配る「ガリガリ君」。

小ネタは実に多種多様である。吹雪の札幌で「ガリガリ君」の着ぐるみが試供品を配ったり、棒付きアイスである「ガリガリ君」には必要ないのに、店頭にスプーンを用意する。「吹雪なのにアイスかよ!」「スプーンなんていらないじゃん!」という「突っ込み」が話題になった。

受験シーズンにはアイスの棒におみくじを仕込み、受験生の間で人気が沸騰した。冬の「東京ラーメンショー」で販売したところ、約5人に1人がラーメンの後に「ガリガリ君」を食べた。

ひとつずつは小さな話題づくりだが、こうした小ネタを次から次に連鎖的、重層的に仕掛けていく。その積み重ねがある臨界点を越えると、一気に売り上げが増えるという体験を萩原さんはしている。

小ネタを仕込み始めたのは2004年頃。その頃はまだ散発的だったが、それ以降小ネタの数をジワリジワリ増やしていった。ゲームソフトや漫画、玩具など様々な企業とのコラボレーションにも力を入れた。お金はかけないが、知恵を振り絞り、思いつくことは何でも挑戦した。

すると、04年前後は約1億5000万本で頭打ちだった「ガリガリ君」の販売本数が、07年には2億本に到達。萩原さんはさらに小ネタを仕込み続け、10年には3億本の大台を突破した。

萩原さんはこう振り返る。「生活シーンに溶け込む話題を継続的に提供することが、アイスの売り上げ増加に結びつくと信じてやってきた。小ネタは単発では意味がない。その累積が閾値を越えたときに、初めて効果が出る」。

萩原さんは類稀なアイデアマンである。そのユニークな発想、アイデアを生み出す力は卓越している。しかし、彼のビジネスパーソンとしての最大の武器は、Stickyになれるということである。誰になんと言われようが、自分の信じることに執着し、しぶとく、しつこく取り組む。これはそう簡単には真似ができない。