滝のおかげで思いっきり闘える

オリンピックを前に滝修行を行った。写真左が吉田沙保里選手、右は福田氏。

ようやく2004年のアテネオリンピックから、悲願だった女子4階級の採用が決まりました。前年、ニューヨークで行われた世界選手権で、日本は全7階級のうち5階級制覇し、オリンピックのマットに立つ4選手は全員世界チャンピオンです。これは厳しい練習のおかげですが、油断してはいけないと選手はもちろん、コーチ陣も引き締めました。

オリンピックの正式種目になったことで、各国が力を入れ始め、ライバルがワッと出てきた。そもそも、オリンピックは世界選手権とは全く別物で、何が起こるかわからない。

日本人は、精神的な強さでもって敵を圧倒しなければ勝てない。最後まで諦めないで攻め続ける精神力、苦しさを乗り越えてリードされていても平常心を取り戻し、落ち着いて挽回する強い気持ちを身につけさせたいと考えたのです。

そこでオリンピック前に精神面の強化を再度徹底しようと行ったのが、燃え上がる炎の前で一心不乱に読経する「護摩修行」(富山・大岩山日石寺)、体感温度10度のなかで7メートルの高さから落下する水に打たれる「滝打ち」です。私も一緒に参加したのですが、滝打ちの厳しさは想像を超えていました。

護摩修行を行うレスリング選手たち。お寺は、福田会長が育った富山を選んだ(撮影・宮崎俊哉)。

これなら鍛錬になると思ったのですが、アテネ大会で日本選手団旗手を務め、“感銅”メダルを獲得した浜口京子は「悪いものがすべて落ち、煩悩が消えました。気持ちの整理ができたと思います」と言い、吉田沙保里は「滝が首の後ろにあたって、とても痛かったです。外国人選手のタックルよりもすごいですね。心も体も鍛えられたと思います。滝は初めての経験で、とても楽しかったです。うれしくて、得した気分。すっきりしました。オリンピックで思い切り闘えそうです」と、逆に喜んでいたのです。選手はそれぐらい成長したということでしょう。今回のロンドンオリンピックでは、女子レスリングは3個の金メダルを獲得することができました。

しかし、まだまだ日本のレスリングは坂の途中です。私がいつまでやれるかもわかりません。でも、しっかりした精神論をつくり、それを哲学に高め、イズムにしておけば必ずや次のリーダーが生まれてくる。やっぱり、いい伝統を引き継いでいくことです。

(宮崎俊哉=取材・構成 原 貴彦、若杉憲司=撮影)
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