2014年2月21日(金)

「四つ葉」のスッポン鍋――雑炊の至福 スッポン鍋編

dancyu 2012年1月号

マッキー牧元=文 鵜澤昭彦=撮影

雑炊は、神秘を隠し持つ。

事実を知ったのは、「四つ葉」だった。

その雑炊は、スッポン鍋の〆に出された。そっとよそった一膳目は、スープの滋味が口いっぱいにあふれ、後からご飯の甘味が追う。ぼってりと盛られた二膳目は、スッポンの滋味と米の甘味がなじんだ優しい味わい。三膳目は、甘味と滋味が融合して深みを増し、最後は、味が凝縮したおこげで締めくくった。

料理人が一時も鍋から離れずつくり上げた雑炊は、めくるめく味の変化に魅了される、一つの魔法だった。もう十数年も前のことである。

その雑炊が、さらなる進化を続けているという。これは、行かねばならない。

3坪の厨房から奇跡を生み出す、懐石「四つ葉」は、料理人、長谷川新さんと女将さんが2人で営む小さな店である。

長谷川さんは、元華族の教授より、さまざまなことを伝授され、独学で料理の研鑽を重ねてきた。類まれな精進と仮借なき個性で、試行錯誤を重ねながら自分の料理を創ってきた料理人である。

そういう男だからこそ、大量の酒と生姜を使い、高熱で炊くことにより臭みを取り除く、という従来の手法に疑問を抱いた。それではスッポンの持ち味は、生かされないのではないかと。

以後、徹底的にスッポンのメカニズムを研究し、臭みや雑昧を取りながら、汚れなき旨味を引き出す、独自の手法を編み出したのだ。

スッポン鍋は、2人で1匹。後ろ足、肩甲骨、首、前足、胸骨、骨盤の順に食べていく。

不飽和脂肪酸を含んだ、とろりと溶ける濃厚な脂、鉄分を含んだ赤い肉の部位、弾けるような食感の白い肉の部位、コラーゲン質の旨味に富んだ、甲羅下の部位、噛めば噛むほどに味がにじみ出る、骨周りの肉。

部位ごとの味わいが、生命のしずくを滴らせる。味がスープに逃げておらず、たくましくも穏やかな、スッポンの純度が舌に迫る。それは、他生物の命を絶って育まれていく人間の性(さが)を、体の隅々まで感じる瞬間だ。

そしてこの後、三楽章からなる、驚異の“雑炊シンフォニー”が奏でられる。

この連載記事のバックナンバー
トップページへ戻る

マッキー 牧元