2014年2月14日(金)

「鴨川」の天然フグちり――雑炊の至福 フグ鍋編

dancyu 2012年1月号

森脇慶子=文 鵜澤昭彦=撮影

フグちりは、〆の雑炊を食べるための前哨戦――とはよく言われる話だが、養殖のフグならいざ知らず、それは、真の天然トラフグに対して失礼というものだろう。とはいえ、ちり鍋をノルマとしてまでフグ雑炊を食べたいと思う、その気持ちはよくわかる。

ある意味、フグ雑炊は、フグの身そのものよりもフグの滋味旨味を余すところなく味わえると言ってもいいかもしれない。身から骨から頭からにじみ出るそのエキスを凝縮させるような形で、飯粒一つ一つにじんわりとしみ込ませるわけなのだから……。

そして、雑炊の味を大きく左右するのがフグの質。上質であること。つまりは、旨いフグちりが絶品のフグ雑炊を食べるための必須条件と言っていいだろう。

皿に咲く大輪の花のように見事なフグ刺し。旨味も深い。身のカットも大ぷり。

「赤坂鴨川」。創業43年になるこの店もまた、フグの底力を教えてくれる貴重な一軒だ。先代の大菅正孝氏は、古き佳き向島の料亭で料理長まで務めた腕の持ち主。その名残は、フグと鱧のすり身でつくる“金箔新女”などの趣向を凝らした前菜からもうかがえる。だが、白眉はフグ。大分や下聞から取り寄せるほか、築地で買いつけることもあるそうで「扱うのは2キロ前後の天然トラフグのシロのみ」とは、女将の大菅孝子さん。

開店当初から店をサポートするかたわら、自らもフグ調理の免許を取得。父君亡き今は、女将稼業を務めつつ自ら厨房に立ち、フグを捌く。「近頃は、天然化した養殖フグや奇形も時折見られるので必ずマルで仕入れる」のも女将のこだわり。2~3日ねかせ、旨味を熟成させたフグをまずは刺身でいただけば、噛みしめるほどに味蕾にしみ入る深い余韻が口中に広がる。何もつけずとも十分旨い。淡麗にして玄妙なる味わいは、上質の天然フグなればこそだろう。

さらにその真骨頂は、刺身よりもむしろ火を通したときによくわかると実感するのが、この店の“ふくちり鍋”であり、雑炊なのだ。皮と身のしゃぶしゃぶに続いて登場する真打ちは、姿造りの様相を呈している。唇、カマなど各部位に分かれて盛りつけられた様は、実に壮観だ。

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森脇 慶子