経済学者 アルビン・ロス氏

ノーベル経済学賞の受賞理由である「マッチング(組み合わせ)理論」とは何か。これはゲーム理論を使い、「人と人」や「モノと人」をどのように組み合わせればよいのかを研究するものだ。ゲーム理論とは複数の人が存在し、各人が意思をもって行動する状況(ゲーム)の中で、相手の行動を推測する考え方。これを応用して、たとえば、学校を選ぶ生徒と生徒を募集する学校、臓器提供者と患者など、組み合わせによって満足や不満が生じる問題で状態を改善する方法を考える。

この理論は我々の日常生活にも応用することができる。どうやって最適な組み合わせとしてのパートナーを見つけ、幸福な結婚生活を築くか――。まずはこのことから考えてみよう。

未来を共にする配偶者を探すとき、そして配偶者と長期的関係を築いていくときにマッチング理論は役立つ。結婚とはダイナミックなゲームである。今日のことを考えるだけでは足りず、明日、そして、将来にわたって、ずっと2人の関係がどうなるかを考えねばならない。

私は結婚のマッチング研究の専門家ではないが、好みの異なる人たちをいかに組み合わせるかについての研究は、お互いにひかれ合っていることを認識するところから始まる。たとえば、個人の情報を発信し合うオンラインデーティング(ネット恋愛)を見てみよう。米国には、非常に多くの候補者の中から気に入った人を自由に選べるサイトもあれば、マッチングでふるいにかけた比較的少数の相手を紹介してくれるサイトもある。

さまざまなサイトがあるが、少数の候補者を紹介してくれるサイトが、うまくいきやすいかもしれない。よりどりみどりのサイトは、お互いの情報をやり取りするのが難しい。魅力的な写真の女性には男性からメールが殺到するため、一人一人の男性への対応がおざなりになるからだ。翻って男性のほうは、女性から返事がこないことが多いので、数多くメールを出さねばならず、一通一通に気を配れない。その結果、メールに盛り込む情報量が減ってしまい、女性に振り向いてもらえないという悪循環に陥る。たとえば一度につき6人しか紹介してもらえないサイトであれば、一人一人に集中できるし、相手からも注意を向けてもらえる。結婚したいなら、大量の情報交換が必要だ。お互いのメールも丁寧に読み合える。