ダイバーシティが知識創造を活発化させる

組織能力の開発としての組織開発
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組織能力の開発としての組織開発

そしてその傍らで進行するのが、経営のグローバル化である。経営のグローバル化は、必然的に、人材と組織の多様性を進める。経営のグローバル化とは、単純にビジネスが海外に出ていくだけではなく、組織として、多様な価値観や考え方を内に取りこみつつ、その中で、企業としての方針やビジョンを貫いていくことなのである。その意味で、経営のグローバル化は、最も大きなダイバーシティ上のチャレンジといえる。

したがって、ダイバーシティ活用能力の第一水準は、多様性を顕在化し、それがもたらす経営的な問題に対処する力である。いうなれば、多様化する価値観や意識に対して、意図的に、組織としての一貫性をつくりこむことだといってもよい。

具体的に、最もわかりやすい施策は、組織としての文化や価値観、行動指針などのつくりこみである。これまで多くの企業では、組織文化のすりこみや価値観の浸透を、積極的な組織開発の一環としてこなかった。組織としてのまとまりは、意図してまでつくる必要を感じなかったのかもしれない。

だが、自律的な人材やグローバル化した人材が増え、多様性が大きくなるほど、企業文化の統一や価値観の浸透は、経営上、自然な前提とするのが難しくなるのである。こうした状況で、企業として全体最適を図るために文化や価値観、ビジョンなどを共有できることは、組織としての強みであろう。

ちなみに、これが自律型人材を多く抱える企業(例えば、グーグルなど)で、組織としての統一を図るための組織開発に大きな資源が投じられている背景である。それは、単なる施策の域を超えて、自律した従業員の潜在能力と、集団としての多様性を、経営のために最大限活用しつつ、同時に組織としての統一感を維持するという、相反する状況を可能にするための組織能力の構築なのである。

だが、ダイバーシティへの対応は、単に組織に統一感を持たせ、経営上の問題を防ぐということだけではなく、さらに、効果的に活用すれば、新たな知識創造の源泉となる可能性を秘めているともいわれる。なかでも、知識創造において重要だといわれる、アイデアのぶつかり合いが活性化されるのである。似通った価値観や議論の前提からのぶつかり合いではなく、より深いレベルでの探り合いを含めて、知識創造のプロセスが活発化することは容易に想像できる。

逆に、難しいのは、多様性とは、お互いにアイデアを交換する過程を妨げる要因にもなることである。あまりに違うから、わかり合えないから、議論しない。単純にいえば、そういうことになろうか。その結果、知識創造は止まってしまう。

知識創造の活性化と衰退、この境界を決めるのは、組織とそこに参加する人が持っているダイバーシティ活用能力である。このレベル(いわばダイバーシティ活用能力の第二レベル)については、あまり多くのことが議論されてはいない。私は、基本的な構造は、これまで明らかにされている知識創造の過程と大きくは違わないと考えている。ただ、その難しさは、格段にレベルアップする。組織として、ダイバーシティの中で、知識創造能力を確保することは、競争上大きな意味があるのである。

経営がグローバル化し、戦略上イノベーションが重要になるなど、新たな競争上の課題が顕在化しつつある中、人材開発から進化して、戦略達成の基盤となる組織としての能力を開発していく必要がある。本格的な組織開発の時代ともいえよう。

(平良 徹=図版作成)