新卒一括採用はなくならない

「前倒し化」が進めば、採用活動はどうしても非公式な形を取らざるをえなくなり、目に見えにくいものとなります。アルバイトやインターン、リクルーター面談、あるいは「学生と企業のコラボ商品開発」「学生向けiアプリ開発コンテスト」などに姿を変え、「アングラ化」が進みます。

しかし、この「アングラ」採用活動には、インターネットを通じた採用活動のように、誰もがエントリーすることはできません。均一にその機会が提供されるわけではなく、その機会にアクセスできる情報源、ネットワークを持っているかいないかで大きな差が生まれてしまうのです。

公平性という意味では大きな問題がありますが、経営学的に言えば、企業にとって採用の目的とは、「戦略を達成するために人を調達する」というだけのこと。そこには「どんな方法で」ということは規定されていないのです。より安価に確実に優秀な人材を確保したいと考える企業にとって、早期から囲い込みができるメリットは大きく、今後もこうした傾向は進むように思います。表向きには、企業が採用活動を前倒しすることは難しいため、「アングラ」ルートは、最終面接へのファストパスとして機能するとみています。

日本では就職、就活を入試のように公明正大であるべきもの、と考える風土が根強くあるため、これからも表向きには新卒一括採用方式は続くでしょう。実際、新卒一括採用方式は採用のコストを抑えられる優れた仕組みでもあります。社内で人材を育成し、適所に配置していく内部労働市場が発達している日本企業にとって、人材を一度に大量に安価に採用できるメリットは大きいものです。

こうした新卒一括採用はなくならないものの、これからは「アングラ」ルートで入社する人が増えていくでしょう。もちろん、今までも縁故も含め、様々な採用のルートがあったわけですが、より複雑になり「マルチルート化」が進む、というわけです。

このように採用活動の「前倒し化」「アングラ化」「マルチルート化」が進むと、次は、新人を早期戦力化するため「育成の前倒し」が行われるようになるでしょう。現に、ITベンチャーなどでは、学生をアルバイトやインターンの形で育成した後に採用するなど、採用と育成がセットになっている企業も増えてきています。

こうした変化が起きると、採用活動は今までのように人事部の採用担当者だけが携わるものではなくなり、多くの人が関わるようになってきます。中には人材を必要とする部署の管理職に権限を持たせ、そこが主体となって組織単位で採用活動を行う企業も出てくることでしょう。