トップレベルのサービスと高コスト体質

「ANAの客室乗務員の現場では、特に国際線の中核を担う要員が少なく、困ったことが起きているように思う」

航空業界に特化したシンクタンク・航空経営研究所の主席研究員の光岡寿之氏がつぶやく。光岡氏はJALに40年近く勤務し、成田空港支店長や関連会社であるジャルスカイサービスの社長を務めた。

光岡氏は「これまでの経験をもとにした推測」と前置きしつつ、続ける。

「ANAの客室乗務員の平均勤続年数が6.5年。JALは10年前後。この4年の差は大きい。JALは、数年前にリストラを行った。現在は20~50代の社員数のバランスがいい。ANAは人員整理をしていない中でこの平均勤続年数ならば、20代の若い層が多く、その上の中核になる世代の数が少ないのではないか」

光岡氏はこのキーパーソンを早く育成することが、正社員雇用に切り替えた、1つの理由としてとらえる。「そのためには、定着率を上げることが前提となる。そこで“正社員”が浮かび上がったのではないか」。

ANAは今後、一層、国際線に力を入れる。ANAは、英国のスカイトラックス社が運営・格付けする「エアライン・スター・ランキング」で「ファイブ・スター」を獲得しているだけに、機内サービスの質の高さは世界的に認められている。

「その体制を維持し、発展するために、優秀な人材を採用し、早く育て上げたい。そして早く中核を担うことを期待しているのだと思う」

光岡氏が、ANAが正社員雇用に切り替えた、もう1つの理由として挙げたのが、JALとの採用競争である。

「2012年度まではJALは新卒採用をすることができなかった。ANAが、一人勝ちの状態で、優秀な人を採用できた。だが、JALは経営状態が回復し、採用を活発化させている」

そして、ANAとJALの客室乗務員の採用者数などのデータを示し、説明する。

「13年度中に入社する募集者数が、ANAは新卒・既卒を合わせ、600人。JALは新卒・既卒で350人。2社で計950人となるが、実際は内定辞退者が現れることを想定し、ANA、JALともに100~150人ほどはこの数字よりも多くしているはず。双方で1000人以上の人に内定を出している」