同様に、激安の殿堂「ドン・キホーテ」も客に格差を感じさせない。同社の店舗では、従業員にトイレや売り場の場所を聞くと仕事の手を休めてそこまで案内してくれたり、荷物を重そうにしていると代わりに持ってくれたりもする。高額所得者ほどいいサービスを受けられる百貨店と異なり、客は、皆、平等だ。また、東京・恵比寿駅近くの元公設市場を再生した、戦後の焼け跡にできた飲み屋街といった趣の「恵比寿横丁」には、焼き鳥や串カツ、おでん、お好み焼きなど様々な業態の13の飲食店がひしめき合い、夕刻ともなるとあらゆる層の人でごった返している。ここの店と通路には壁がないが、人と人の間にも壁がない。お金がなくともないなりに楽しめるし、新橋のガード下のように常連が幅をきかせて入りにくいということもない。

一方、景気の悪化につれて“もどき商品”の台頭も著しい。安さが売りの回転寿司には、高価なマダイの代わりにティラピア、カジキの代用にアカマンボウといったネタが出回っている。あるいは、酒店の店頭や居酒屋の棚では、甲類のホワイトリカーと乙類の本格焼酎を混ぜた「甲乙混和焼酎」が一気に勢力を拡大している。それらは、今、価格の安さで人気を呼んでいる。しかし、今後、生き残れるかどうかは、初めは安いがまずかった発泡酒が味や品質を向上させ定着してきたように、価格軸からの発想を超えた、その商品なりの本物感をどこまで高められるかにかかっている。

激増必至の年収200万円層のマーケットを捉え、「リデフ」(リ・デフレ=再デフレ)に勝つ、《恐慌突破》のマーケティング術は、安いなら安いなりの商品やサービスを提供するのではなく、目の前のあらゆるお客様の声を真摯に受け止め、顧客満足度を高めるという商いの王道に徹することにほかならない。

(西川りゅうじん 撮影=矢木隆一)