●JALは倒産したんですよ。

――日本記者クラブでの講演 2011年2月8日

2010年1月に経営破たんしたJAL。稲盛は1カ月後の2月、経営再建のために会長に就いた。航空運輸事業に関しては素人だが、何とかしなければならないと思い、政府などからの要請を受けたのである。JALに入ってみて、稲盛は驚く。「JALは倒産したんですよ。そういう意識が幹部社員にも非常に稀薄だった」。稲盛はまず、幹部社員の意識改革に乗り出す。50名くらいずつ集めた勉強会を、1回数時間、延べ十数回実施する。夜に缶ビール片手に、侃々諤々の議論を行ったのだ。「利益より安全が重要」と主張する幹部たちに、稲盛は「利益が上げられなければ、安全も確保できない」と説いた。再建1年目の11年3月期、JALは1880億円の営業黒字を出した。

●人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力

――『働き方』三笠書房

なぜ、人生や仕事にうまくいく人と、そうでない人がいるのだろう。何か法則でもあるのか。常にそう疑問を持っていた稲盛は、京セラを創業して間もなく、この成功の方程式を思いついた。

能力とは、先天的に与えられた知能、運動神経、健康のこと。熱意とは、努力する気持ちであり、努力の分量のこと。考え方とは、心のあり方、生きる姿勢のこと。

稲盛は、能力と熱意は0点から100点まであるとしている。生まれながらの才能は低くとも、際限ない努力をすれば、結果はいいものになる。最も大切なのは、考え方。これはプラス100点からマイナス100点まである。正しい考え方をすればプラスだが、間違った考え方をすればマイナスになる。どんなに能力が高く、努力を重ねても、考え方が間違っていれば、かえってマイナスが大きくなってしまうということだ。

稲盛は「自分の苦労を厭わず、他に善かれかし」というような考え方はプラス、「世をすね、人をねたむ」ような考え方はマイナスと説いている。

●不可能を可能に変えるには、まず「狂」がつくほど強く思い、実現を信じて前向きに努力を重ねていくこと。

――『生き方』サンマーク出版

願いをかなえたいならば、まず「すさまじく思う」ことが大切だ。松下幸之助は、ダムに水を貯めるように経営も余裕を持ってすべきだと講演した。聴衆がそのやり方を尋ねたとき、幸之助は「そんな方法は、私も知りませんのや。けれども、ダムをつくろうと思わんとあきまへんなあ」と答えた。具体的な答えを期待していた聴衆はガッカリしたが、稲盛は「思い」こそが最も重要なのだ、と理解した。