これらの枠組みが並行的、重層的かつ競争的に議論を進めていけばいいのであって、TPPだけを重視するわけではない。しかしながら、TPPは、自由貿易に特に意欲的な有志の国々が集まり、他の枠組みでの議論を先導する高いレベルのルール作りが行われており、アジア太平洋地域において自由な貿易・投資の環境を整備する上で、TPPは大きな起爆剤、そして議論のベースとなるものと思われる。

また、日本がTPP交渉に参加することによって、これまで日本に関心の薄かったEUであるが、日本の市場を米国やほかのTPPの国々に先を越されてしまうとの思惑も働き、日本との経済連携協定(EPA)に前向きな姿勢に変わり、SCOPING EXERCISEという事前協議を経て、現在日EU間でFTA交渉を行っている。

まさに、日本が中心となり、かけ橋となり、アジア太平洋地域や欧州との間で、重層的に自由経済圏が構築されようとしているのである。世界経済の発展のためにも、また、国際社会において存在感が低下していた日本が、その発言力・地位を保つためにも、日本はTPPにおいて中心的な役割を果たすべきだと考えている。

そのEUも米国と自由貿易協定(FTA)の議論をはじめているし、TPPと合わされば、米国、欧州、オーストラリア、カナダ、メキシコ、シンガポールという主要な先進国が、民主主義、資本主義の価値を共有しながら、国際的経済活動のルールを決めていくことになる。

また、TPP交渉の先行は、日EU FTA、RCEP(東アジア地域包括的経済連携)、そして日中韓FTAの交渉のベースとなるものと考えられる。日本のTPP交渉は、このような視座に立って、捉えるべきものなのである。

西村康稔(にしむら・やすとし)
昭和37年、兵庫県明石市出身、神戸大学附属明石中学校、灘高、東京大学法学部卒業。通産省入省後、アメリカ・メリーランド大学院で国際政治学を学び卒業。平成11年通産省調査官を退官後、平成15年衆議院議員総選挙において初当選。20年外務大臣政務官。同年9月、47歳で自民党総裁選に立候補。以降、党改革実行本部副本部長、党政調副会長、党影の内閣 経済産業大臣、財務大臣等を歴任。24年内閣府副大臣に就任。著書に『新(ネオ)・ハイブリッド国家 日本への活路―3つの空洞化を越えて』(スターツ出版)、『生き残る企業・都市』(同文書院)、『リスクを取る人・取らない人』(PHP研究所)、『国家の生命線』(共著・PHP研究所)などがある。
(写真=宇佐美雅浩)
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