僕は常日頃から、「全員経営」ということを言っています。もともとは松下幸之助さんの言葉ですが、「全員が経営者マインドを持つ」という意味で僕は使っています。今の時代、あらゆる階層の人にとってリーダーシップがなければ仕事はできません。

不幸なことに、これまでの会社は軍隊や官僚の組織を見本にしてきたところがあります。そういう組織では、上の人が言ったことを下の人が実行する、といったかたちで、意思も責任も分断されていた。そういう時代はもう終わったのです。

今のような「平時が危機」の時代では、最新の情報を持っている現場の人間が、その都度関係者と協議しながら、その場で判断していかないと物事が進みません。また、現場の人が自律的に判断していこうと思ったら、まず自分はこういうふうにやりたい、やるのだという意思を持たなくてはなりません。組織を構成する1人ひとりにリーダーシップがなければ、会社はまわっていかないのです。

(09年9月14日号 当時・会長兼社長 構成=野崎稚恵)

楠木 建教授が分析・解説

私自身、個人的なお付き合いのある柳井氏について、2つの記事をもとに解説しよう。

まず最初の記事。普通、人がなぜやり抜けるかといえば終わりが見えるからである。マラソンも「あと2キロでゴール」と思うから最後の力を振り絞れる。しかし柳井氏に言わせれば、ゴールに寄りかかるのは本物ではない。「いつまでにいくらの売り上げを達成しよう」と日付や数字などの具体的な目標に寄りかかると、それが不可能だとわかった(思い込んだ)時点でやり抜けなくなってしまうからだ。

本当にやり抜くためにはもっと抽象的な理念やコンセプトを設定する必要がある。ユニクロの場合であれば、「服を変え、常識を変え、世界を変える」というコンセプトに向かってやり抜く。それが結果的に「無限の成長」につながっていくのだろう。

たとえばヒートテックという商品は単なるヒット商品を超えて、ファッションや人々の生活スタイルを確実に変え、世の中を変えた。これを「ヒートテックを何万点売ろう」という数字的な目標だけで動いたら、ここまでの大ヒットにつながったかどうかわからない。