部下が辞めていった

他人から見れば、常に前向き、パワフルに見えるかもしれませんが、私もヘコむときはヘコみます。しょっちゅうヘコんでる。

課長時代に、部下が何人か辞めていったことがありました。ほとんどは給与の高い会社に転職していったのですが、上司の自分が目標や将来の絵姿をうまく示せていないせいかも、と落ち込みました。会社のビジョンが見えなければ、自分自身の将来も思い描けない。「この会社にいれば、将来、これだけのことができますよ」とビジョンを掲げて、仕事のオポチュニティ(機会)を十分に与えてあげられていれば……。いま振り返ると、そういう対話が足りなかったのです。

しかし、ときにはヘコんで自分を見つめ直す時間も大切でしょう。ずっと上をめざして突き進んでいれば、壁にぶつかったときにボッキリ折れる。だから、少しぐらいタワミがあったほうがいい。力を抜くことも大切です。これは、私が働くすべての女性たちに伝えたいことです。

毎日が同じでも、いつかわかる日がくる

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鳥海さんのキャリア年表

入社から24年になりますが、「あ、自分の視野が広がった」と気づく瞬間が過去何回かありました。最初に思ったのは入社3年目くらい、いまの自分から見ればごく小さな範囲ですが、「世の中のことが少しわかった」と思えるような瞬間がありました。2度目は、留学から戻った入社10年目の頃。そして3度目が、05年に当時の古賀信行社長の政策秘書を務めていた頃です。このときは、初めて甲板に出て水平線を眺めたと思えたほど、ものの見方や考え方が一変しました。

それは何かの特別な出来事が起きて、それがきっかけで変わったわけではありません。ふとした瞬間に「あ、そういうことだったんだ」とわかるのです。これまで蓄積してきた小さな経験が、ある日突然、頭のなかでつながって見えるのです。これは、小さなステップを積み重ねるしかありません。

だから若い人たちにも、「毎日同じことの繰り返しでつまらないかもしれないけど、急に視野が開ける瞬間があるよ。必ずいつかわかる日がくるから」とアドバイスしています。

もちろん、そのような成長実感を得るためには、日々の仕事の意味をしっかり考えている必要があります。「この仕事の先にあるものは何だろう」と好奇心を持ち、前向きに取り組むからこそ、あるとき多くのことが見えるようになるのだと思います。

伊田欣司=構成 宇佐美雅浩=撮影