「溜め」より「スピード」。得意分野の隣を掘れ

――若い人たちに「ずっと、この会社にいたい」という人が増えたそうです。対照的に、「チャンスがあれば、会社を飛び出して起業家になりたい」という野心的な若者も増えています。この起業家志向をどう思いますか。

【宮内】大切なのは、起業すること自体を目的にするのではなく、何か新しくこれをやってみたいというものが、自分にあるかないかです。専門性を磨き、自分の持つノウハウや知識で挑戦できると思ったら、私はやってみることを勧めます。私だって、もし、いまの世に生まれてきたら、絶対、起業家になります。

――新しいビジネスを手がけるとき、著書では「いまのビジネスに隣接した分野でやるほうが、成功する確率が高い」と指摘していますね。

【宮内】遠くにある面白そうなことに、思い切って飛びつくというようなことは、私にはできません。かつて、照明器具などを手がけるメーカーを、家具のリースにつながるかと考え、買収したことがあります。でも、考え方も行動様式も全く違い、うまくいきませんでした。

そうした経験から、「もう、絶対に隣の分野にしか出ない」と決めました。得意な分野を深掘りしていくと、自然に隣の分野のビジネスチャンスやリスクの程度がみえてきます。そういった形で始めた新規事業が成長し、会社の柱になるものです。オリックスグループも「隣の分野」へ広げてきたら、6つの事業分野が育っていました。しかも、その中心事業が、いつのまにか、ぐぅーっと動き、別のものに変わっています。

――新しいことに挑戦する気風を社内に維持するには、人材育成が不可欠です。『世界は動く』では「従来の画一的な人事評価のままでは、過小評価された社員は去り、過大評価された社員ばかりが残る」と指摘し、知識社会にふさわしい人事評価システムが必要だとあります。

【宮内】現状では、知識社会における人事評価システムの決定版は、世界中のどこにも存在していません。新たにつくっていく必要があります。ただ、システムとは別に、個々の人間の能力を引き出す方法はあります。私は「能力×120%の仕事を与えよ」と言っています。能力が100だと思う人なら、120の仕事をさせてみるということです。それは、頑張れる範囲で、いずれ、その人は120の仕事をこなせるようになります。仮に100の人に150の仕事をさせるとつぶれるし、80の仕事しかさせないと80止まりになってしまう。要は、能力の2割増の仕事をさせるというのが、私の論理です。それを40代までに経験させれば、必要な人材として残ります。