人事処遇で考慮するべき3つの要素とは

少し話がそれるが、「出向」という人事処遇には、今回の番組で用いられたような懲罰的な意味合いが込められたものや、出向先に行ったきりになる片道切符のものだけではないことも補足しておきたい。確かに、中高年になっての出向は片道切符が多いのも事実だが、育成出向や子会社支援出向など、いずれは戻ってくることを前提としたものも多いし、また将来への期待をかけられた人材だからこその出向というのもあるのである。

もちろん、半沢に将来が期待されているかどうかは微妙なところである。でも、私から見て、彼は、やり方はややゆきすぎだったかもしれないが、犯罪者を裁き、銀行を救った手腕の持ち主である。優秀な人材であればあるほど、一休みさせて、ほとぼりが冷めるまで待って呼び戻すという人事は当然考えられるはずである。彼が今回の出向により、成長して、個人的な意図と会社の意図をバランスすることを学んでほしいという期待もあろう。

人事上の処遇というのは、不思議なものである。外から見ると、なぜその決定が下ったのかわかりにくいことが多い。特に、配置転換や昇進、昇格など、1人ひとりのキャリアに大きなインパクトを与える処遇において、そういう傾向が強い。当たり前だが、1人ひとりのキャリアに大きな影響を与えるからこそ、決定の背後が知りたいということなのかもしれない。

確かに、企業には、懲罰的な人事もある。派閥争いのとばっちりを受けたというケースもあろう。また、意思決定をした人が深く考えなかったという場面もあるだろう。

だが、企業における人事の多くは、今回の半沢直樹のケースで解説したように、いくつもの多様な要素を考慮した結果であることが多い。いくつもの考慮がつまったものが人事処遇上の決定なのだ。そしてそのことが人事の意思決定を不可解なものにしている。いくつか重要な要素を挙げてみよう。

1つは、当たり前だが、本人へのメッセージである。行動や能力に対するプラスやマイナスの評価に基づき、それ相応の処遇をする。ただ、多くの場合、評価にはプラス面とマイナス面があるので、前者を褒め、後者にダメ出しをしながら、今後の向上を願う。

強みを伸ばし、弱みを直す。人材のマネジメントにおいてよく聞かれるフレーズだが、人事処遇は1つの決定のなかに、褒めることと叱ることを同時に含めなくてはならない。そのため、一層わかりにくいのである。