市場の効率性からみる見方の違い

ラース・ピーター・ハンセン氏は、資産価格決定の合理的な理論を検証するのに適した統計的方法(一般化モーメント法:GMM)を開発し、この方法を利用して、資産価格決定の理論を修正することによって資産価格を説明できるようになることを見出した。一方、シラー氏は、合理的な市場参加者の前提に基づくことなく、市場参加者の合理的な行動からの乖離に焦点を当てる行動ファイナンス理論のアプローチの基礎を築いた。市場参加者の非合理的な行動によって市場で誤った価格が形成され、資産バブルも発生しうることを指摘した。

さらに、市場の効率性に焦点を当てて、両者の相違を際立たせよう。金融資産は、消費する商品・サービスと違って、時間の経過のなかで利子・配当などの収益を毎期得られるほかに、その資産を満期前に売却するときには市場価格で元本を現金化できる。そのため、金融資産の価格は、毎期得られる利子・配当などの収益におけるキャッシュフローの現在割引価値と予想将来売却価格の合計である。予想将来売却価格が購入価格より高く(低く)なると、資産の値上がり益(値下り損)、すなわち、キャピタルゲイン(キャピタルロス)が得られると予想される。このように、金融資産を保有することによって、収益のキャッシュフロー、すなわち、ファンダメンタルとして得られる収益のほかに、価格変動によるキャピタルゲインあるいはキャピタルロスの収益・損失が存在する。これらの両方が現在の価格に反映される。

現在の価格がファンダメンタルとして得られる収益と予想将来価格によって決まり、現在の価格と同様に将来の価格も決まるならば、将来の予想価格は、ファンダメンタルとして得られる将来収益の予想とさらにその先の将来の予想価格によって決まる。したがって、現在の価格と同様に、将来の価格もファンダメンタルとして得られる将来収益の予想とさらにその先の将来価格の予想によって決まることから、現在の価格は、現在から将来にかけてのファンダメンタルとして得られる収益(ファンダメンタルズ)の予想、そして、ずっと先の将来の予想価格に依存することになる。このずっと先の将来の予想価格が現在価格と異なる場合には、キャピタルゲインを得ると予想することになり、ファンダメンタルズでは説明できない、いわゆるバブル部分となる。

このようにファンダメンタルズと将来価格の予想が現在の価格に影響を及ぼすためには、これらの情報を持った市場参加者が何ら規制を受けることなく、自由に利益を求めて取引を行い、そして、その行動の結果として、即座に価格に反映されることが前提となる。市場参加者が金融資産取引を行うことによって利益を生み出すという情報を入手したときに、その取引が規制されると、市場参加者は取引を行えず、価格が反応しない。したがって、価格に関する何らかの情報が入手されたときに、自由に金融資産取引を行えるように市場に規制などの制度的制約や取引費用や情報の不完全性・非対称性などの市場の摩擦が存在しないことが必要である。これが市場の効率性のための1つの前提条件である。