審査員には経済界の重鎮も

面接は、受験者1名vs面接官7名、そして京大・松本紘総長との1対1という二段構え。面接官、すなわち採用候補者選考委員会の名は「伯楽会議」という。白眉を選ぶ者たち、その名は伯楽。ここでそのことばの意味をおさらいしておこう。

白眉とは何か。その意味は「優れている者の中で、さらに優れている者」。その由来は『三国志』の「馬良伝」として知られるエピソードだ。蜀の馬氏に五人兄弟がいた。いずれも優れていたが、中でも白毛混じりの眉を持つ馬良が最も優れていたという。馬良らは劉備玄徳にスカウトされ、活躍する。なお、五兄弟の末弟の名は馬謖という。優秀だが致命的ミスをして、諸葛孔明に泣いて斬られるあの馬謖である。

伯楽とは何か。元来は「馬の目利き」、その意味は「優れているものを見いだす名人」だ。南宋時代(日本では平安末期~鎌倉時代)の科挙の文献に「千里の馬は常にあれども、伯楽は常にはあらず」「世に伯楽あって、しかるが後に千里の馬あり」の言がある。伯楽が発見しないと、どんな名馬も名馬となれない、という意味だ。但し、中国古代の『莊子』馬蹄編を見ると、伯楽が余計な調教や間違った育て方をしたことで、せっかくの名馬が死んでしまうという話もあったりする。

伯楽会議委員(2013年3月末時点で32名)には任期があり、今日までに複数回入れ替わっている。メンバーは京大の学者だけではない。他大学(たとえば日本学術振興会理事長/前慶應義塾塾長・安西祐一郎、千葉工業大学惑星探査研究センター所長・松井孝典)も名を連ね、さらには経済人の名もある。2013年の白眉のパンフレットを見れば、経済人では數土文夫(JFEホールディングス相談役)、生駒俊明(キヤノン副社長)の名がある。2009~2010年には堀場製作所最高顧問・堀場雅夫も伯楽会議委員だった。

伯楽は単なる名誉職ではない。たとえばJFE相談役の數土は社会人となってから専門の冶金工学で107本の論文を仕上げた研究者としての顔も持つ。北海道大学工学部を卒業し川崎製鉄に入社。2001年に同社社長。2003年にNKK(日本鋼管)と経営統合したJFEスチールの社長に就任し、ただでさえマネジメントが難しいとされる巨大合併企業で「利益15%増」という目標を掲げて達成している。現在は東京電力の社外取締役も務める経済界の重鎮である。

バッタ博士を面接したのがどの伯楽なのかはわからない。また、面接の内容は次期受験者にいらぬ「傾向と対策」を植え付けないためか非公開とされており、たとえば10分間の総長面接が何語で行われるかといったことは内緒だ。そこで編集部は博士から「現在公開可能な情報」のみ聞き出した。