歌手 鳥羽一郎

1952年生まれ。本名木村嘉平。芸名は出身地の三重県鳥羽市に由来する。10代から5年間にわたりマグロ・カツオ船に乗り組み遠洋漁業に従事する。その後、板前の修業に入るが、27歳で作曲家船村徹氏の内弟子となり、30歳のとき『兄弟船』で鮮烈なデビューを飾る。海難遺児支援や刑務所慰問などチャリティー活動にも積極的で、「更生保護司」の肩書も持つ。新曲『一厘のブルース』は、出所者の社会復帰を手助けする千房・中井政嗣社長らの「職親プロジェクト」に賛同し歌い上げたもの。


 

食わず嫌いだったんですよ、蕎麦のこと。僕は三重県の漁師町の生まれです。三重は伊勢うどんが有名な「うどん文化圏」。近所には蕎麦の名店なんてなかったから、蕎麦がおいしいなんて子供のころは知らなかったなあ。

蕎麦に目覚めたのは、船村徹先生の内弟子時代。先生のお供で信州へ行ったとき、1軒の蕎麦屋さんに入りました。それこそ山奥にぽつんとあるようなお店で、おばあちゃんが自分で打った蕎麦を食べさせてくれました。そこで食べた1枚が本当に美味しかった。

当時僕は28歳か29歳くらい。以来病みつきになって、行く先行く先で、蕎麦屋さんを探しては入るようになりました。一時は自分で蕎麦屋をやりたいと思い詰めるほど蕎麦に熱中しましたね。いまでも「主食は蕎麦だよ」というくらい、蕎麦ばかり食べています(笑)。食感がいいので、十割よりも二八蕎麦のほうが好みです。

おもしろいもので、おいしい蕎麦屋さんって、誰もが「こんなところに?」と驚くような、交通の不便なところにあるんです。そこへ東京あたりから、蕎麦1枚を食べるために車でお客さんが詰めかける。地方でそういう店を見つけたら、必ず入るようにしていました。

おいしいお店は店構えでわかります。佇まいというのかな。もちろん手打ちのほうがおいしいけれど、佇まいがいいお店はだいたい手打ちです。これは都会でもそう。

自宅に近い「たつ実」さんには、17年前の開店当時から通っています。とにかく、どのメニューも美味しい。1つとしてまずいものがないんです。1番好きなのは、辛味大根のもりそば。かき揚げ、穴子天、鴨汁そば、だし巻き玉子もおいしいですよ。平日メニューの天丼もたまに食べますが、こちらも絶品です。

僕は仕事柄全国を旅して歩くことが多いんですが、自宅にいる日は定休日の木曜以外、たいていここでお昼を食べています。

で、木曜日はどうしているかというと、「花むら」さんに行くわけです。ネタが新鮮なうえ、全部天然ものだから魚料理がとにかく旨い。タイでもハマチ、カンパチでも、養殖ものと天然ものでは味がはっきりと違います。ここはおやじさんが毎朝、市場へ仕入れにいくそうで、だから美味しいんだと思います。

僕は若いころマグロ漁船に乗っていたから魚にはうるさいほうです。スーパーで刺身を買うなんてことはまずないですね。でも、たまに売り場で旨そうなイワシを見つけて買って帰るんですが、さばいてみるとやっぱり……。そんなことを繰り返すものだから、家内にはよく「また食べないくせに買ってきて!」と叱られていますよ(笑)。