2013年12月20日(金)

ハタハタ――秋田の名産だが鳥取も“とろはた”名乗りをあげる

dancyu 2012年1月号

福地享子=文
【つくり方】
ハタハタは、頭と尾を落とし、ブリコが抜けないようにしてワタだけ取り除く。あとはサバの味噌煮の方程式で、味噌、砂糖、酒に生姜をいっぱい散らし、静かに煮る。

木枯らしを引きつれ、築地にハタハタがやってくる。11月、シーズンの前触れを告げるように北海道産や山形県産が入荷。やがて北風が市場の奥まで舞い込む12月、秋田県産の登場で、本格的なシーズンに入る。

5キロの平たい箱、氷を敷いたうえに水揚げの勢いさながらにならんだハタハタ。そのうえに、お客さんが人さし指でクルリ無造作に丸を描けば、「そっくり、もらうよ」のサイン。売り手の「ありがとうッス」の声もひときわ高くなるってものだ。あんなに大量に持っていくなんて、秋田出身の料理人さんかしら。なにせ、築地では5キロそっくり、箱単位で買っていただけるお客さんは少ない。

そこへいくと秋田県、すごいもんらしいですね。ブリコ(卵)やシラコを抱えた「季節ハタハタ」と呼ぶ群れが、浜に押し寄せる暮れともなれば、ここぞとばかり料理する。塩焼きにしょっつる鍋、麹漬けなどの漬け魚はもちろんのこと、主役をとるのは、年とりの晩と正月のお膳を飾る飯ずしだろう。めしと麹で漬け込むこの伝統のなれずしのため、家庭でも箱単位で買うのが常識だとか。雪に閉ざされた里海へ、雷鳴と潮鳴りをとどろかせやってくるハタハタを、漢字で書けば、魚に神で「鰰」。秋田県にとっては、ソウルフードの魚なのである。

築地でもそれは承知で秋田県産には一目おいている。しかし、そこへ「われこそが」と、名乗りをあげた県がある。鳥取県だ。実は、鳥取県も大量水揚げを誇る県なのである。

といっても、秋田県産とはかなり違う特徴を持っている。鳥取県産の場合、産卵場所は韓国沖合のため、ブリコやシラコはない。そのぶん、身に脂がたっぷりのっており、身を賞味するのがポイントで、「とろはた」と銘打ち、参入となったのだ。さらに高鮮度であることをかかげ、すし種にと提案。まったくの生、あるいはコハダと同じ方程式で下ごしらえして握りの種にと。イワシやアジなど、すし用青物系の小魚が季節はずれとなる時期なので、そこへ、というわけだ。

私もこの鳥取県産を、刺身や握りで食べてみたが、クセがなく、けっこういけるのには驚いた。秋田県産対鳥取県産、この対決はスタートしたばかりだし、暮れのごちそう魚攻勢にまぎれてしまいそうだけど、私にはこの冬のチェックポイントのひとつである。

もっとも家庭で生というのは、まだまだむずかしい。塩焼きか、味噌煮あたりかしら。ブリコをプチプチ噛みしめ、ホロホロした身を味わえば、暮れの喧騒も遠のき、しみじみ気分。ちょっとすね者みたいな気もしてさ。そこがまたいいの。

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福地 享子

かつて女性誌の編集者、その後、築地の鮮魚仲卸「濱長」の看板ネエサンとして大活躍。現在は築地の書庫「銀鱗文庫」役員。ここを拠点に、築地を走り回っている。