――今回の努力論争でも「可能性はゼロじゃない」という意見は多かったですね。

【為末】そこが僕にはとても気になりました。ゼロじゃないといっても、限りなくゼロに近い場合と、10%くらいの確率がある場合って全然違いますよね。僕は可能性の有無よりも、確率論で考えるほうなんです。そういう考え方って、日本では冷酷であるとか、ずるいとかいわれがちですが。

――可能性に賭けるか、確率論で決めるか。これは個人の選択ですよね。

【為末】もちろんです。勝てる可能性は1%でもやるという人もいるでしょう。でも、「パーセントとか関係なくて、大事なのは気持ちなんだ」となってくるとちょっと話がずれてくる。宝くじは基本的に当たらないとわかって宝くじを買うのと、買い続けていればいつかは当たるんじゃないかと信じて買うのはまったくちがうということです。後者の人が、買っても買っても当たらないと不満をつのらせていくのは不健全だと思うんですよね。

――せっかく働いて稼いだお金ですしね。

【為末】そう。でもお金って、まだ何とかなる資源だと思うんですよ。それよりも時間。時間という資源は、死に向かって減り続けていく。可能性は無限だという人がいるけれど、人生は有限です。自分が生きているあいだのかけがえのない時間を、当たる確率がほとんどない宝くじを買うために使うのか、もっと勝率の高いものに費やすのかということです。

『ゼロ-なにもない自分に小さなイチを足していく』(ダイヤモンド社)
[著]堀江 貴文 
 
為末 大(ためすえ・だい)
1978年広島県生まれ。2001年エドモントン世界選手権および2005年ヘルシンキ世界選手権において、男子400メートルハードルで銅メダルを勝ち取る。陸上トラック種目の世界大会で日本人として初のメダル獲得者。シドニー、アテネ、北京と3度のオリンピックに出場。男子400メートルハードルの日本記録保持者(2013年5月現在)。2003年、大阪ガスを退社し、プロに転向。2012年、日本陸上共起選手権大会を最後に25年間の現役生活から引退。現在は、一般社団法人アスリート・ソサエティ(2010年設立)、為末大学(2012年開講)などを通じ、スポーツと社会、教育に関する活動を幅広く行っている。著書に『諦める力』、『走る哲学』、『決断という技術』などがある。 http://tamesue.jp
(聞き手=プレジデント書籍編集部 中嶋愛 撮影=大杉和広)
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