では、ブランドの資産とは、具体的にどのようなものを指すのか。アーカーは、ブランド・エクイティを構成する要素として、「ブランド認知」「知覚品質」「ブランド・ロイヤルティ」「ブランド連想」の4つをあげている。「村上春樹」を例に説明していこう。

1つ目のブランド認知とは、文字通りブランドの認知度である。市場において多くの顧客に知られているほど、ブランドの資産価値は高くなる。村上春樹はベストセラーを連発する国民的作家であり、海外でもその名を知られている。

2つ目の知覚品質は、機器などで測定される客観品質ではなく、顧客に受け止められる主観的な品質を指す。文学はもともと主観的なものだが、村上春樹の作品が本当に理解されているかどうかは別にして、読者が「よい作家だ」と思えばブランドとしての価値は高まる。

アーカーが3つ目の要素としてあげたのが、ブランド・ロイヤルティだ。ロイヤルティの水準が高いブランドには強い支持者が存在し、競合ブランドには簡単にスイッチはしない。“ハルキスト”と呼ばれる熱狂的な読者を持つ村上春樹は、この点でもブランドの資産価値が高いといえる。

もう1つ、ブランドの資産価値を測るうえで欠かせない要素が、ブランド連想だ。あるブランドが提示されるとき、私たちは製品カテゴリーやベネフィット、属性やキャラクターなど、さまざまな事柄を思い浮かべる。例えば村上春樹なら、「純文学」「ノーベル賞候補」「ジャズ」「スコット・フィッツジェラルド」といった具合だ。

アーカーのよきライバルであるケビン・レーン・ケラーは、これらの事柄をノードと呼び、ノード同士が結びつく連想ネットワーク型記憶モデルでブランド連想を説明した。強く、好ましく、ユニークなノードと結びついたブランドほど、資産価値も高い。

これらの4つを積み上げたものがブランド・エクイティである。4つの要素がそれぞれ高水準にある「村上春樹」の新作が発売前から注目を集めた理由も、これで合点がいくはずだ。

※すべて雑誌掲載当時

(構成=村上 敬)